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 利用されたらしい。黒峠のいいように動いていて、自分はまるで操り人形だ。何故彼は何にでも私を引きずり込むのか。抱えるなら一人で抱えればいいのに。その腹の立つ笑顔を見ていると、「協力が不可欠だった」と口では言いながらただ人を困らせて楽しんでいるように思えてくる。しかし、仕方がないのかもしれない。最初に彼に話を持ちかけたのは自分だ。深い深いため息をついた。
「私の話、聞いていただろう」黒峠が声をひそめる。「殺された重村という男は、行方不明事件と何か関係がある」
「はあ」
「協力してくれるね、柊君」
 虚偽証言についての罪悪感に苛まれ、上の空だった亜沙子だがふと我にかえった。まだ黒峠は私を利用する気なのだろうか。冗談ではない。私はそんなに都合の良い女じゃないんだから。
「何で私が協力しないとならないんですか」
「だって君の友達の弟がいなくなったんじゃないか」
「いや、それは……」そう言われると、自分も無関係ではないことを思い出す。
「それにね柊君」
 黒峠は亜沙子の肩に手を置いた。背筋に悪寒が走る。
「私と君は共犯だ」
 亜沙子はうなだれた。どうしてあの時、「本当です」などと言ってしまったのだろう。黒峠の顔を見た途端、その言葉が口をついて出てしまったのだ。彼は催眠術でも使ったのだろうか。今すぐ警察署に駆け込むべきかもしれない。この人、私を利用しているんです。そう大声で訴えたかった。黒峠はどこかへ電話をかけていた。
「今、円さんが来てくれるから」
 迎えに来るよう円に連絡していたようだ。間もなく車に乗った円がやって来て、二人は車に乗り込んだ。
「黒峠先生、自分で運転したらどうですか。いつも円さんを呼ぶなんて気の毒ですよ」
 円は笑って「いいんですよ」と言った。慣れているのだろう。それにしても、黒峠は円に甘えすぎていた。助手席に座る黒峠が鼻で笑った。
「私に運転席は似合わないだろう」
 意味がわからない。
「共犯者の柊君がよくやってくれました」
「誰が共犯者ですか。私は被害者ですよ」
 凄惨な事件の現場や警察署に連れて行かれ、嘘までつかされた。間違いなく自分は被害者だ。何て可哀想なんだろう。誰も同情してくれないので、自分で同情することにした。
「柊さんにはあのこと、お話したんですか」



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