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 半ばやけくそになり、疋田の質問に答えた。もうどうにでもなればいい。適当にと書かれていたのだから、お望み通り適当に答えてやる。責任は黒峠がとってくれるのだろう。
 開け放したままの戸を誰かがノックする。疋田と亜沙子が同時にそちらを向いた。黒峠を連れた浅野が立っている。黒峠が何か言おうとすると、浅野が口を塞いだ。二人の刑事は廊下に出ていった。亜沙子と黒峠の証言を照らし合わせているらしい。亜沙子は冷や汗をかいた。打ち合わせもしていないのに、証言が合うわけがない。黒峠は暇を持て余し、窓ガラスに息を吹きかけて指で絵を描いている。
「ほとんど一致しているな」
 やや不満そうな顔をして浅野が部屋へ戻ってきた。亜沙子は驚いて黒峠を見た。どうして一致するのだろう。
「本当だったみたいですね」疋田が言った。
「浅野さん、私はいつでも協力しますよ。善良な市民は警察の味方ですから」黒峠が満面の笑みを浮かべる。浅野は何も言わなかった。

 * * * *

「どういうことなんですか」
 無事解放され警察署を出たところで、亜沙子は尋ねた。
「何がだい」
「何もかもですよ。どうして私と黒峠先生の証言が一致したんですか。私は適当に言っただけなのに」
「君が言いそうなことを言っただけさ」
 例えば時間。例えばその場にいた理由。黒峠は次々にあげていった。それは亜沙子が疋田に言ったこととほとんど同じだった。
「聞かれる内容は大体分かるしね。君は慎重な人だから当たり障りのないことを言うだろう。それに単純だからひねったことは言わないだろうし」
 もしかしたら馬鹿にされているのかもしれない。
「それにしても、どうして私を巻きこんだんですか。目撃したのは先生なんでしょう」
 まだその理由が分からなかった。まさか一人で警察署に行くのが嫌だったから、というわけではないだろうが。
「見てないよ」
「え?」
「見てないんだよ。第一発見者なんて」
 耳を疑った。見てない?
「嘘をついたんですか」
「情報を得る為に浅野さんと話がしたかったんだよ。私は信用されていないから、君の協力が不可欠だった。私一人なら警察署へ連れて行かれて説教されて終わりだよ。これで警察に近付く口実も出来たわけだ」



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