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 会議の後の、班組の発表。何で俺が。そう言ってしまうところだった。何で俺が、女と組むんだ。しかも、そんなにでかい女と。階級は彼女の方が上だった。当たり前だ。本庁一課の人間だ。だけど、女。しかも、でかい。宜しくお願いしますと差し出された手も、でかかった。
 背は大きいがしかし、間違いなく女だった。体は細いし、顔立ちも整っている方だ。疋田里絵。それが彼女の名前だった。班組が発表された後、同じ所轄の若い刑事が「でかい美女と小さな野獣」と面白がって言った。「馬鹿野郎」と浅野は肘で小突いたが、はたからはそう見えるのかもしれないと思った。
 現場に来る必要はなかったのだが、疋田警部補がどうしてもと言うので、ここへ来ることになった。今、現場では遺留品の捜索が行われていた。あくびを噛みころしながら、浅野は疋田を観察した。何度見てもでかい。細いが、華奢ではなかった。肩までの髪は後ろで一つに束ねていた。目つきは鋭く、虎を連想させる。あの虎はずっと上を目指してのぼっていくのだろうか。ご苦労なことだ。女なら刑事なんて辞めて、結婚でもした方がいいだろうに。何でまた刑事になったのだろう。やりがいはあるが、男でもきつい仕事だ。
 突然虎が振り向いた。浅野がたじろぐ。今の考えが、声にでも出ていたのだろうか。
「な、何か」
 ぼんやりしていたので文句でも言われるのかと思ったが、疋田は浅野よりずっと後ろの方を見ながら言った。
「あれは誰ですか」
 浅野もそちらを見た。現場保存のテープを堂々とくぐり、誰かがこちらへやって来る。その向こうでは、一般人と見える茶髪の若い女性が困ったように立ち尽くしていた。怪しい誰かに、浅野は見覚えがあった。覚えがあるどころか知り合いだ。誰かは制服警官に敬礼をすると、浅野と疋田の前に立った。
「こんにちは浅野さん、お元気ですか」
 浅野はため息をついて首を横に振った。「知らないのなら教えてやろう。あの黄色いテープはな、パーティーの飾りじゃない。ここから入ってはいけません、という目印なんだ。分かったか。分かったらおとなしく帰るんだ」
 あの黒いコート。目つきが悪く嫌な笑みを浮かべるその男は、黒峠有紀に間違いなかった。ただでさえ面倒な事件なのに、面倒事の塊みたいな奴がやってきてしまった。
「私にはテープをまたぐ権利があります」
「くぐってただろ」
「細かいですね。とにかく、私のことは大事にした方がいいですよ。何しろ、『第一発見者の目撃者』ですから」
 浅野が首を傾げる。
「聞いてないな」
「言ってませんから」



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