11 嘘


 翌日。深夜まで熱心に課題に取り組んでいたせいで、寝過ごした。母は早くから仕事にでかけ、誰に起こされることもなく昼まで熟睡してしまった。しまった、とベッドで体を起こして額を押さえたが、もうどうしようもない。過ぎた時間は巻き戻せないし、今からでは授業に間に合わない。というか、既に終わっている。
 こうなったら仕方がないもの、お昼ご飯を食べよう。亜沙子は開き直ることにした。一日休んだくらい、どうってことない。幸い今日は出席日数より成績を重要視する先生の授業だった。テストで良い点を取れるなら、授業にはそれほど出なくてもいいと言う先生だ。
 焼いた目玉焼きを皿に乗せ、黄身を見つめる。その教科の前回の成績を思い出して憂鬱になった。今回こそは頑張ろう。
 あくびをしながらテレビをつける。変死体が見つかったという事件の続報が伝えられていた。現場近くの黄色いテープの前に、リポーターが立っている。背後には、険しい顔をした制服警官の姿が見えた。
「被害者の身元が判明しました。全国指名手配中の、重村勝吉容疑者だということです。重村勝吉容疑者は、詐欺容疑で指名手配されており……」
 その重村とかいう男は、全身を殴打され死亡していたという。指名手配されていた詐欺師が近所で殺されていたなんて、衝撃的な話だ。ニュースのコメンテーターや母が言っていたように、物騒な世の中になってしまったものだ。詐欺容疑がかかっていて、被害者でもある重村の顔写真が映し出される。三十代には見えない顔だ。高校か中学の卒業アルバムの写真だろう。目が細く、陰気そうな男だった。
 側に置いてあった携帯電話が鳴った。
 友美かな。でも、友美には今日は休むってさっきメールを送って、返事がきたばかりだけど。画面に表示されているのは、「黒峠」という名前だった。
「柊君、暇?」
 第一声がこれだった。

 * * * *

 また、面倒なことになりやがった。
 警視庁夜月中央警察署刑事課強行犯係の浅野一郎は、上着のポケットに手をつっこみ、何度目か分からないあくびをした。一応、誰からも見られないよう下を向いて。隣にいる女性にちらりと目をやった。背が、でかい。浅野は男性にしては背が小さかった。隣にこんなでかいのがいたら、俺の小ささが目立っちまうじゃねえか。子供の時から背のことは気にしていた。牛乳もたくさん飲んだ。何をしても、背は伸びなかった。おまけに最近は、伸びるどころか歳のせいで縮んでいっている。
 昨日の捜査会議のことを思い出した。どうもその時は体調が悪く、話を聞きながら吐き気をこらえるのに必死だった。年々、胃も弱っている。
 どうにもややこしいことになっていて、気分が落ち着かない。



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