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「いい加減にしてよ! 黙って聞いていれば、意味の分からないことばかり言って、私を困らせるのがそんなに楽しい……」
「思い出した!」
 黒峠は声を張り上げ、人差し指を勢いよく頭上へつき上げた。そのまま呆気にとられている亜沙子を指さし、嬉しそうに続ける。
「思い出したよ。今時計が鳴っただろう。あれはね、お昼の合図なんだ。もう十二時じゃないか、お昼を食べよう! 柊君!」
 もう怒る気にもなれなかった。亜沙子は力なく頷いた。とりあえず、ご飯を食べよう。

 * * * *

 二人は学校の食堂に来ていた。昼時だというのに、ひと気がない。
「随分と空いてますね」
「それがさあ、今みんな変でしょ。聞いた話では、昼飯をトイレで食べるのが人気らしいよ。昼休みはどこのトイレも満員だって」
 最悪だ。亜沙子は顔をしかめた。絶対自分は変になりたくない。
「柊君、何食べる? おごるよ」
「そんな、いいですよ」
 黒峠には借りを作りたくなかった。
「遠慮しないで。どうせ全部タダなんだから」
「タダ?」亜沙子は聞き返した。「タダってどういうことですか」
「今日はね、学長の爪切り記念日で、学食が無料なんだって」
 何だそれは。学長の爪切り記念日。追及する気にもなれなかった。それにタダなら、おごるも何もないと思うのだが。黒峠はうどんをすすめてきたが、昨日のタクシーの一件から食べる気がしない。亜沙子はカツ丼定食を頼んだ。こんな時だというのに、腹は空いていた。
「柊君、食欲はあるんだね。腹が減っていたから苛々していたんじゃないの?」
「今日は朝食を抜いたのでお腹が空いていたんです。苛々していたのはもっと別の理由なんですけど」
 カツ丼定食には、漬物の代わりにチョコレートとおわんに入った牛乳がついてきた。当然中身はお吸い物か何かだと思って開けた亜沙子は、おわんの中身を見るなり勢いよくふたを閉めた。
「飲まないの? 牛乳。もらっていい?」
「牛乳はいいですから、そろそろ教えてもらえませんか。さっき言いかけた、みんなが統一してとっている行動のこと」
「牛乳くれる?」
「あげますから、話して下さいよ」



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