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「私は電車の中でその光景を目の当たりにしたんだ。その場所の外に出た途端、電車内の人々は変な行為をやめた。反対に乗り換えて戻ってみると、その場所に入った途端にみんな変な行動を始めるんだ。誰でも、この不思議なエリアに入ると変になってしまうらしいね。私と君を除いて」
 何となく一緒にしないでもらいたかった。
「原因は何だと思いますか」
「さあね。新種の病気かもしれないよ」さも適当に黒峠は言った。
「そんな病気、聞いたことがありませんよ」
「だから新種なんだよ。まあ、冗談は置いておくとして……」
 ずっと置いたままにしてほしいものだと思った。冗談に付き合っていられる気分ではない。
「疑問はいろいろあってね。ひとつ、どうして私と君は、みんなと同じようにおかしくならないのか」
「確かに妙ですね。全てが妙ですけど」
「そしてもうひとつ。変になった人々のことだけど、彼らはつじつまの合わない行動をとり、言動も意味不明。しかしだ、彼らは統一した行動をとっていることが判明した。そこが問題なんだ。みんな無条件に狂っているわけではないらしい」
「それで、何ですか。その統一していることというのは」
 亜沙子が身を乗り出したところで、部屋に音楽が響いた。耳障りな電子音だ。
「やあ、米が炊けたみたいだ」
 そんなに早く米が炊けるものだろうか。黒峠は積み重なった本の山を崩しながら、炊飯器の元へと向かった。中を覗いて、不思議そうな顔をする。
「おかしいな。炊けてない」
 鳴りやまない音楽は、どうやら亜沙子の足元から聞こえてくるようだ。探ってみると、鳴っているのは小さな時計だった。悪趣味なことに、人の生首の形をしている。
「黒峠先生、これが鳴っているみたいですけど」
「何だ、時計か。おかしいと思ったんだよ。まだコンセントもさしていないのに米が炊けるなんて」
 黒峠はコードを持って笑っている。
「先生。私のことを馬鹿にしてるんじゃないですよね。それともからかってるんですか。いい加減にしないと怒りますよ」
 亜沙子は黒峠をにらんだ。その黒峠はというと、やはり笑っている。
「柊君、君はさっきから十分怒っているじゃないか。何がそんなに気にくわないかな。しかし分からないなあ、最近の若い子は何かといえばすぐキレる。これは社会問題だね。笑う門には福来たるだよ。ふ・く・き・た・る」
 亜沙子はキレた。



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