22 手紙


 目を覚ますと朝になっていた。昨夜はあのまま眠ってしまったらしい。時計を見ると、もう八時を過ぎていた。大変だ、また遅刻する!
 そこで、昨日の悪夢のような出来事を思い出した。昨日から夏休みだった。十月だけど。今年二度目の夏休み。
 昨日は本当に悪夢だった。夢だったらいいのに。そうだ、もしかしたら夢かもしれない。あんな出来事、夢以外に説明がつかないもの。確かに昨日の出来事は現実だったのだが、亜沙子は僅かな希望を抱き、部屋を出た。夢であったなら今日は遅刻決定だが、それでも良かった。
 しかし、その希望も次の瞬間崩れていった。
 廊下のそこら中、白くて長いものが散乱している。拾い上げてみると、トイレットペーパーだった。両親のことが心配になった。どんなに頭がおかしくなっても、親は親だ。もしかして、昨日よりおかしくなっていたらどうしたらいいだろう。
 リビングはトイレットペーパーの海と化していた。その中で両親は楽しそうに泳いでいる。何とも言い難い光景だった。
「亜沙子―、あんたも入りなさいよ。気持ちいいわよお!」
 もちろん入るわけがない。
 トイレットペーパーの海で溺れたふりをする夫を助けながら、美和子は一通の手紙を亜沙子に手渡した。
「あんたに手紙が来てたわよ」
「私に?」
 よく見る、普通の茶封筒だ。差出人の名前は書かれていない。封筒の表には、汚い字で「柊 亜沙子様」と書かれていた。その名前以外、住所もなければ切手も貼られていない。誰かが直接届けに来たのだろうか。思い切って封を開けた。

亜沙子様
 久しぶり。君も変になりましたか?
 変なのってなかなかいいでしょう。君の為にも、もっともっと変な人を増やすよ。
 今日は忙しいけど、そのうち会いに行くからね。

 白い紙に、こんなことが書いてあった。これだけ周りがおかしくなれば、私だっておかしくなるわよ。口をとがらせてしばらく手紙を睨んでいたが、最後の一文を読むと恐怖を感じた。筆跡からすると男のようだが、こんな字に見覚えはない。思い当たる節はないが、内容からすると相手はこちらのことを知っているらしい。
 このまま家にいて、本当に手紙の差出人がやってきたらどうしよう。亜沙子は悩んだ。親に相談しようにも、二人ともトイレットペーパーの海で泳ぎ続けている。
 友達もだめ、先生もだめ、警察もだめ。そうなると、唯一相談相手になりそうな人間は一人しかいなかった。あの黒峠という変人だ。あまり頼りたくはなかったが、他に話が通じそうな相手もいない。家にいたところですることもないのだ。大学を訪ねてみよう。



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