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 これ以上この男と関わるのは、時間の浪費に他ならない。まともな人間でないなら話す必要がないのだ。亜沙子はさっさと立ち上がり、この場を去ることにした。泣こうとしていたところだったのだが、このみょうちきりんな男のせいで自然と涙も引っこんでしまった。
「あ、じゃあさ」
 怪しい男はへらへらしながら亜沙子を引き止めた。
 何を笑ってんのよ、こっちは大変なのに。と亜沙子は憤る。
「鳥はいいから、道を教えてくれないかな。君の制服――東高でしょ? 東高に行きたいんだけど……」
「あっち!」
 勢いよく振り返ると、亜沙子はある方向を指さした。一応、方角は間違っていないはずだ。無視したわけでもないし、質問にも答えた。もう変人の相手をするなんてごめんだ、と男に心中八つ当たりしながら去っていく。
 この男は今日一番の変人だ。何せ見ただけでそうだとわかるくらいなのだから。


 不機嫌そうに歩いて行く女子高生の背中を見つめ、怪しい男はやれやれと一人ため息をつく。
「この頃の若い子は不親切だ。それにしても、今日は本当にみんな変だなあ」
 男は学生に教えられた方角に体を向け、鳥かごにちらりと目をやって歩き出した。

 * * * *

 いろいろ考えた末、交番に行くことにした。もうそれ以外あてがない。困った時はお巡りさんに聞く。小さい頃母に言われた言葉を信じるしかなかった。少し歩くと、早速派出所を発見した。ここにかけるしかない。
「すいません」
 小さな期待と不安を抱えながら、亜沙子は派出所のドアを開けた。どうか、お巡りさんはまともでありますように。
「どうかしましたか」
 中にいたのは二十代くらいの、若いが真面目そうな警官だった。この人なら期待出来そうだと亜沙子は思った。
「あの……何て言ったらいいか、お巡りさんは普通ですよね」
 警官は不思議そうな顔をした。
「なんだか変なことを聞きますね」
 「変」という言葉は正直もう聞きたくなかったが、今はそんなことを気にしている場合ではない。早く今の状況を説明しなければ。
「ええあの、変なんですよ。変っているのは私じゃなくてつまり……」
 そこまで言うと、亜沙子はあるものを見て言葉を失った。それは、あのクリップを繋げる事務員を見た時と同じような衝撃だった。



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