04


 あれは――誰かの悲鳴。
「おい」
 男は後輩に呼びかけた。名前で呼んでも返事はなく、男の心はじわじわと恐怖に満たされていく。
 アイツは、抜けているから、足でも滑らせて転んだんじゃないだろうか? でも、どうして返事をしないんだろう。それとも、やっぱり鳥か何かの声で――……
「おおい! どうした!」
 男の怒鳴り声は響きもせず、雨の中に散っていく。教授に待っててくれと言うと、石を雨合羽のポケットに入れ、歩き出した。
 今日は散々な日だ。一刻も早く帰りたい。
 草の海を泳ぐように進み、男は全てのことに腹を立てながらどんどん歩いた。ポケットにかなりの重みを感じ、その重みは石自身がその存在を主張しているようで、それがまた忌々しかった。
 石がどうした。祟りも呪いも、そんなもの、あるわけがない。あってたまるか!
 突然男は、何かにつまずきそうになり、足を止めた。見下ろすと、見覚えのある雨合羽を着た人物が地面に突っ伏している。一瞬呆然として、それから我に返り、男は倒れた後輩に声をかけようとした。
 しかし何かが草藪からぬうと出て、男はそちらに目を奪われた。
 黒いレインコートを着た、見知らぬ人物だった。長い棒のような物を持っている。
「お前は……」
 後ろから声がして振り返ると、追いかけてきたのか、そこには教授がいた。
 お知り合いですか。男は混乱のあまり、そんな馬鹿げた質問をしようとしたが、口から発せられる暇はなかった。
 頭に強い衝撃が走り、体の力が抜け、地面へと崩れ落ちた。
 ああ、顔が泥だらけになる。やっぱりシャワーを浴びなくちゃ。そして風呂上りには、一杯やろう。
 どうして俺が、こんな目にあわなくちゃならないんだ。
 体の下に、あの石の感触がある。こんな、こんなものがあるから。
 今日は散々な一日だ。
 もしかして、これが、祟りというやつなのだろうか。
 男の意識は深く沈んでいった。



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