02


「僕、ちょっと向こう見てきますね」
 この変化のない状況に嫌気がさしてきたのか、後輩は小走りに先へ進んでいき、男の方は生返事をした。もはや発見は望んでおらず、引き返すタイミングをはかっていた。
 そして男が、この仕事が失敗に終わったものの、己に非がないことをどうやってスマートに上司へ伝えようか、台詞を考えていた時だ。
「あった! ありました!」
 草藪の奥へ姿を消した後輩が声をあげた。男も慌てて走り出した。
 雨にぬれた草をかきわけ、泥をはねあげて進んでいくと、目の前がほんの少しひらけ、後輩の背中が見えた。彼の視線の先には、石と木でつくられた、小さな祠があった。
 立派とは言い難く、いかにも素人の手で建てられたといった感じの、歪な祠だった。
 そのかしいだ祠を見て、男は何とも言えない、嫌な気分になった。
 これ以上、「それ」に近寄りたくない。さっさと帰ってしまいたい。そう思った。
 とは言え、見つけてしまったのだから、今更見なかったことにして戻るわけにもいかない。男は片膝をつき、祠の中にあるものを確認した。
 雨だれの奥に鎮座するもの。後輩が見守る中、無意識に顔をひきつらせ、男は祠の中に手をのばした。
 それは、手に乗るほどの大きさの、黒い石だった。ずっしりと重く、ごつごつしたただの石。
 ――そうだ。ただの石じゃないか。
 男は心の中で何度も自分に言い聞かせた。石は氷のように冷たくて、手にしていると鳥肌が立つ。
「た、祟られたありしませんよねぇ」
 後輩が情けない声を出すので、男は睨みつけた。
「何言ってるんだ。祟りなんて、馬鹿馬鹿しい」
 後輩を叱るというよりは、自分を奮い立たせるために男はきつい口調で言った。こんなてのひらサイズの塊に、何が宿るというのだ。男は非科学的なことは信じない主義だった。
「あれ、教授は?」
 男は後輩に言われて、もう一人の同行者を置いてきてしまったと気がついた。うっかりして、存在を忘れてしまっていたのだ。
 焦った男は、後輩にその人をつれてくるように指示する。後輩がそれに従って去っていくと、男は手の上の石を見つめた。
 やはりどうも、嫌な気分になる。しかしその理由はわからない。
「教授、こちらです」
 がさがさと草をかきわける音とともに、後輩と、教授と呼ばれる初老の男が現れた。教授は禿頭で眼鏡をかけている、痩せた男だった。上司の知り合いで、今回の石さがしに協力させられたらしい。彼は終始口数が少なかった。



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