01 プロローグ


 変な人がいる。
 どこにでもいる。
 でも、そもそも、どういう人が「普通の人」なのだろう。
 もしかしたら、実は誰もが、「変な人」なのかもしれない。
 どこにでも、

 変な人がいる。

 * * * *

「この雨、いつになったらやむんですかね」
 若い男が、泥にはまった長靴を引き抜きながらぼやいた。雨合羽から水が滴り落ちている。
「さあな。天気予報では、明日の朝まで雨模様が続くとか言っていたが……」
 もう一人の男が、さも面倒そうに答えた。彼の方が年上で、若い方は職場の後輩だった。
 こんな仕事、やってられるか。
 先輩にあたる方の男は、この休日労働を命じた上司の顔を思い出し、不満を募らせていた。
 ――いや、楽なもんだよ。ただ、石を持ってきてくれたらいいんだから。頼むよ、君。
 そう所長は言った。
 何が「楽なもんだよ」だ。大体、こんな山奥にあるとは聞いていなかった。上司という立場を利用し、随分と骨の折れる仕事を押し付けてきやがった。そんなに欲しければ、自分の足で取りに行けばいいのだ。
 連日の雨のせいで未舗装の道はぬかるみ、何度タイヤがはまりかけたかわからない。おまけに目的の場所はさらに森の奥ときていて、結局途中からは歩いて行くことを余儀なくされた。
 気温は低く、合羽を着ていてもあちこちがじっとりと湿る。雨あしは時に強まり、弱まり、しかし一向にやむ気配はない。
 水たまりに足をつっこんだせいで、つま先が冷えていた。何もかもが不愉快だった。道なき道を、伸び放題な丈高い草を払いのけて進む。
 目的の場所というのも、おおよその位置しか上司からは知らされておらず、実際「それ」があるのかどうかは行って確認するしかない。
「この辺りのはずなんですけどねぇ」
 並んで歩く後輩が、疲れた声で言った。
 行けども行けども草藪ばかり。男はコンパスを手に前進を続けた。時折ポケットから出して見てみる地図は、すっかり濡れてにじんでしまっていた。
 あんまり奥まで入りすぎて、遭難でもしたら洒落にもならない。適当なところで切り上げ、引き返そうと男は思い始めていた。



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