雷鳴に向かって
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雷よ! 岩をも砕け! ボルグモン決死のチャレンジ
 想は気を失い、意識が戻らないままだった。
 トレイルモンがどれだけ揺れようが、線路のない道を走ろうが、ずっと目を覚まさない。
 とりあえず、洞窟でボコモンとネーモンの傍らに寝かせておくことにした。


「まずいな、行き止まりみたいだ」


 洞窟は完全に行き止まりだった。仕方がないので、拓也たちは引き返すことにした。泉は、横たわる想の元に歩み寄る。


「想、起きて」


 それでも想の瞳は閉じられたままだ。泉はしゃがんで、想の右手を握る。そしてもう一度呼びかける。想、と。
 想は進化しても、すぐに進化が解けてしまった。無理もない、唐突に生命が奪われるのを目にしてしまったのだから。
 しかし、今はボコモンの腹巻の中に収まっているデジタマという希望がある為、全てが終わったわけではない。だが、セラフィモンが亡くなってから想が気絶するまで、彼女の表情はずっと心ここにあらず、虚ろであるのみだった。


「……いずみ、ちゃん」
「想っ」


 想はゆっくりと、瞳を開いた。


*

 世界の終りはありますか。
 あるならば、それは何処ですか。
 眼を持っていても、わたしは空を見上げることができない。
 ずっと夢を見ていた。そこは音も光も届かない、真っ暗な世界だった。わたしは出口のないそこを、手探りで歩いていた。いくら歩いても壁にはぶつからない。
 しばらく歩いていると、紅い瞳をした輝二くんそっくりな男の子がいた。


「     」


 わたしは輝二くん? と言ったけれど、くちびるから音がこぼれることはなかった。口だけはぱくぱくと動いた。声が、出ない。
 紅い瞳の輝二くんは、虚ろに棒立ちしているのみだった。わたしは怖くなって瞳を閉じた、そうしたら、目蓋の裏側は完全に真っ暗闇で、余計にこわくなってしまった。


(ここは闇の世界だ)


 突然に悟る。闇は暗い。暗いからこわい。でもそれは悪いことなんだろうか。ただ、わたしが弱いからこわくなってしまうだけなんじゃないか――。
 逃げないよ、と思ったのはわたしだ。――そして、デジモンになり、デジモンに危害を加えた。それは正しいことだったんだろうか。
 分からなかった。闇に呑み込まれてしまいそう。なんで、わたし、ここにいるの。
 結果的に、あのときわたしが役に立つことはなく、この世界の神は死んだ。


「想、……」


 はじめてここで音を聞いた。
 誰かがわたしを呼ぶ声がして、ふいに、手のひらが温かくなる。気持いい――だれの、手?



「……いずみ、ちゃん」
「想っ」


 目を覚ますと、そこには不安げにわたしを見つめる泉ちゃんの姿があった。手は泉ちゃんの手だったんだ。泉ちゃんはわたしが目を覚ますと、静かに微笑んだ。わたしは、そんな泉ちゃんの顔を見て、とても安心した。
 聞けば、ここは出口のない洞窟だという。だから、引き返すことになった。――そうだ。あのナゾの石碑も、まだまだ謎が解けちゃいないし。
 わたしはゆっくり立ち上がった――その瞬間、一瞬立ちくらみがして、壁に手を付いた。ダメだ、しっかりしなくちゃ。

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