雷鳴に向かって
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 突然に、洞窟の真ん中の池から水が勢い良く溢れ出す。それに当たって、純平さんと友樹くんは悲鳴を上げた。


「友樹、大丈夫か!?」


 純平さんは、自分よりも先に友樹くんの心配をする。
 いきなりすぎたその光景に、わたしもみんなも戸惑っているばかりだったけど、またすぐに水が押し上げられた。――やっぱり、早く戻ったほうがいいんじゃないか。


「グオオオッ」
「く、くじら……?」


 そこから、現れたのは、大きなくじらみたいなデジモンだった。ネットの海に住むホエーモン、だそうだ。――あれ、じゃああの水は海水なんだ。
 ホエーモンはひたすら泣きわめく。イヤだ、イヤだ、イヤだ! そればかりを繰り返していた。
 くじらみたいなデジモン、というだけあって身体はでかい。だから暴れるたびに、水がばっしゃばしゃ溢れ出す。


「スピリット・エボリューション!」


 輝二くんと拓也くんは、それぞれ進化して、ホエーモンの上に乗った。迷惑だから暴れるなとか静かにしろ、と訴えたけど、ホエーモンはイヤイヤ繰り返してるだけだった。


「わがまま……」
「想さん、それ論点ズレてる……」
「わがままじゃないよお、おれは、おれは大海原に帰りたいんだあ!!」


 少し前のホエーモンは、自由にネットの海を放浪していた。ある日、光る海草を発見してそれを食べた。そのとき突然発生した地震によって、波に引きずり込まれるようにして、こんなに狭いところに閉じ込められてた――らしい。


「そんなアヤシイもの食べるとか、食いしんぼう……」
「想さん、だから論点ズレてるってば……」
「図体デカいくせに、だらしないデジモンだな――いてっ」


 純平さんがお腹をおさえる。やっぱり、さっきの波が痛かったんだ。友樹くんが純平さんに寄り添い、支える。ホエーモンはまたおれのせいだーとか泣きわめくし。


「あたしたちもここから出たいから、一緒に帰る方法を探しましょう?」
「……考えて!」


 だめだこのデジモン。


「う、ウワアアッ!」


 ――と思ったのもつかの間、今度は池にあった僅かな水が全てなくなってしまう。ホエーモンは当然海のデジモンだから、苦しそうにけいれんを起こす。
 ドゴン、と大きな音がして、そこから現れたのはグロットモンだった。


「グロットモン!!」
「今度こそお前たちのスピリット、すべて奪ってやる! 特に色の人型のスピリット!」
「……わたしの?」


 何で、わたしなの。すると、グロットモンはそんなことも分からねえのか! と言った。


「おめーはまだスピリットを手に入れたばかりだから、どーせ上手く扱えねえ。だから、ハクジャモンにやって、アイツに使わせんだよ! ハクジャモンはどーでもいいが、ケルビモン様のためだ、仕方ねえ!!」
「……はあ」
「なーに言ってんだよ!」
「そんなことはさせない! グロットモン、ビーストスピリットを失ったお前に勝ち目はないぞ! 泉のスピリットを返せ!」


 アグニモン、ヴォルフモンがわたしたちの前に立つ。
 それにしても、ハクジャモンは――あれは一体なんだったんだろう。―ーわたしがあれの立場だったなら、敵側のこどもを助けたりなんか、ゼッタイしない。

 グロットモンは小瓶を取り出して、コルクの栓を抜いた。その中身を辺り一面に振りまく。ピンクの粒子が空間に舞う。
 まいた場所から、無数の魔方陣が出てきた――これは、ゴーレモンとかいうデジモンを召喚するときにやってたヤツだ。
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