てのひらのせかい
『お前は善にも悪にでもなれる力を持つ可能性を秘めている――だが今のままではダメじゃ』[1/4] わたしは、シャーマモンさんの言葉を改めて思い返した。 善悪。善いことと悪いこと。もちろん、このふたつなら善のほうが良いに決まっている。 でも、それを決める軸はなんだろう。何を持って善とするのか、悪とするのか。 あのときのシャーマモンさんは、どういうつもりで善にも悪にも――なんて言ったの。 「想、考えごとか?」 「へ、あ、分かった……?」 「すごくボーッとしてた」 ボーッとかあ。輝二さんに言われて気づいた。自分ではまったく意識してなかったけど。ダメだなあ、元気な顔してなきゃ! わたしは自分の頬の肉を持ち上げて「でも元気だよ!!」と言いながら笑顔を作った。 「ヘンな顔、だな」 「ひ、ひどい……」 「――シャーマモンに言われたこと、気にしてるのか?」 「えっ」 ずばり、そのとおりだ。うわあこの人いきなり核心突きすぎだよ、エスパーか。 善にも悪にもなれる力。それが一体どういうことなのかなんて、皆目見当が付かない。 だから、いつも、何のためにこの世界に来たんだろう、とも思ってるよ。 ああどうしよう、今ここで彼に「うん、気にしてるよ」とか言ってこいつアホだなとか思われたりしたら。わたしはとたんに何も言えなくなってしまった。――あれ、足元がなんかおぼつかな、 「想!」 一瞬、目まいがして足元がふらふらした。で、気づいたら地面に座り込んでる。な、情けない。 「想さん、疲れてるの?」 「あんまり無理すんなよ!」 「もー。想、あんた普段から食べてないからよ!」 「チョコ食うかぁ?」 皆の声がありがたすぎる。 立ち上がろうとしたら、輝二さんが手を差し伸べてくれた。 「しっかりしろよ。――お前もこの世界に呼ばれて来たんだから、何か意味があるんだろ。お前にしかできないこととか、何かあるんじゃないか」 「う、え、ありがとう……」 ――わたし以外の皆がいい人すぎて、いつも情けなくなる。 * 歩いていると、森のターミナルと書いてある看板が目に映った。辺りには霧が立ち込めていて、少し肌寒い。 よかった、森のターミナル、もうすぐ着くんだ。そうか、皆このために今まで歩いてきたんだよね。 それから、純平さんの案で“デラそば”っていうおそば屋さんに来た。 ペンギンみたいなデジモンさんが店主で、そのデジモンさんがデラモンって名前だから、デラそば。 「久しぶりのお客さんやし、タダでサービスしたるさかい」 「サービス精神豊富だなあ……」 でも、そのおそばは、お世辞にも美味しいとは言えなかった。というか、マズい。 あまりの味のひどさに、皆ひどいカオしてる。もちろんわたしもなんだろうなあ。せっかくお腹すいたから食べにきたのに。 ひ〜、なんか疲れた。 「あんさんら、森のターミナルへ?」 デラモンさんがガン飛ばしながら言った。 おそばに対して思ったことを正直に言ったのは悪かったけど――うう、睨まれるの怖いよー。 なんかデラモンさんの話だと、そこに行って生きて帰ってきた者は今までいなかった、とかなんとか。 「え、デジヴァイスの人ってそんなとこにわたしたちを向かわせ 「何言ってんだよ、想! こんなマズいそば出す奴の言う事、信じられるワケねーだろ!」 一応、今までデジヴァイスの声に沿って呼ばれた。けれど、このまま森のターミナルに行ってもいいのかな――。 「大丈夫かなあ……」 「だ、だよね……」 お仲間発見。純平さんもわたしと同じように、森のターミナルに行く、ってのにためらいがあったみたいだった。 でも、皆は行く気まんまんで、行ってもいいのかなんて、口出す気にはなれなかった。…… NOVEL TOP ×
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