てのひらのせかい
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『お前は善にも悪にでもなれる力を持つ可能性を秘めている――だが今のままではダメじゃ』


 わたしは、シャーマモンさんの言葉を改めて思い返した。
 善悪。善いことと悪いこと。もちろん、このふたつなら善のほうが良いに決まっている。
 でも、それを決める軸はなんだろう。何を持って善とするのか、悪とするのか。
 あのときのシャーマモンさんは、どういうつもりで善にも悪にも――なんて言ったの。


「想、考えごとか?」
「へ、あ、分かった……?」
「すごくボーッとしてた」


 ボーッとかあ。輝二さんに言われて気づいた。自分ではまったく意識してなかったけど。ダメだなあ、元気な顔してなきゃ!
 わたしは自分の頬の肉を持ち上げて「でも元気だよ!!」と言いながら笑顔を作った。


「ヘンな顔、だな」
「ひ、ひどい……」
「――シャーマモンに言われたこと、気にしてるのか?」
「えっ」


 ずばり、そのとおりだ。うわあこの人いきなり核心突きすぎだよ、エスパーか。

 善にも悪にもなれる力。それが一体どういうことなのかなんて、皆目見当が付かない。
 だから、いつも、何のためにこの世界に来たんだろう、とも思ってるよ。

 ああどうしよう、今ここで彼に「うん、気にしてるよ」とか言ってこいつアホだなとか思われたりしたら。わたしはとたんに何も言えなくなってしまった。――あれ、足元がなんかおぼつかな、


「想!」


 一瞬、目まいがして足元がふらふらした。で、気づいたら地面に座り込んでる。な、情けない。


「想さん、疲れてるの?」
「あんまり無理すんなよ!」
「もー。想、あんた普段から食べてないからよ!」
「チョコ食うかぁ?」


 皆の声がありがたすぎる。
 立ち上がろうとしたら、輝二さんが手を差し伸べてくれた。


「しっかりしろよ。――お前もこの世界に呼ばれて来たんだから、何か意味があるんだろ。お前にしかできないこととか、何かあるんじゃないか」
「う、え、ありがとう……」


 ――わたし以外の皆がいい人すぎて、いつも情けなくなる。






*
 歩いていると、森のターミナルと書いてある看板が目に映った。辺りには霧が立ち込めていて、少し肌寒い。
 よかった、森のターミナル、もうすぐ着くんだ。そうか、皆このために今まで歩いてきたんだよね。

 それから、純平さんの案で“デラそば”っていうおそば屋さんに来た。
 ペンギンみたいなデジモンさんが店主で、そのデジモンさんがデラモンって名前だから、デラそば。


「久しぶりのお客さんやし、タダでサービスしたるさかい」
「サービス精神豊富だなあ……」


 でも、そのおそばは、お世辞にも美味しいとは言えなかった。というか、マズい。
 あまりの味のひどさに、皆ひどいカオしてる。もちろんわたしもなんだろうなあ。せっかくお腹すいたから食べにきたのに。
 ひ〜、なんか疲れた。


「あんさんら、森のターミナルへ?」


 デラモンさんがガン飛ばしながら言った。
 おそばに対して思ったことを正直に言ったのは悪かったけど――うう、睨まれるの怖いよー。
 なんかデラモンさんの話だと、そこに行って生きて帰ってきた者は今までいなかった、とかなんとか。


「え、デジヴァイスの人ってそんなとこにわたしたちを向かわせ
「何言ってんだよ、想! こんなマズいそば出す奴の言う事、信じられるワケねーだろ!」


 一応、今までデジヴァイスの声に沿って呼ばれた。けれど、このまま森のターミナルに行ってもいいのかな――。


「大丈夫かなあ……」
「だ、だよね……」


 お仲間発見。純平さんもわたしと同じように、森のターミナルに行く、ってのにためらいがあったみたいだった。
 でも、皆は行く気まんまんで、行ってもいいのかなんて、口出す気にはなれなかった。……



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