てのひらのせかい
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 比沢想さん。
 これはあなたの運命を決めるゲームです。
 あなたのこの選択により、あなたの世界は大きく変わるでしょう。
 スタートしますか、しませんか。  』


 あの日携帯に来たメールの内容は、こうだった。
 今のわたしの世界は変わってるんだろうか。
 確かに、今までだったらこんなに長時間人と接してるなんてなかった。
 デジタルワールドに来る前とは、環境がちがう。
 でもスピリットなんか持ってないままだし、色の闘士? のヘビデジモンさんにも『スピリットなんてあなたにはいらない』とか言われちゃうし、いっつも皆の後ろを付いてきているだけだし。

 わたしの世界は少し変化した、けれどそれがわたしにとってよいことなのかなんて、分かるはずなかった。


 大樹があって、そのなかはらせん階段になっていた。上を見上げても、その階段は果てしなく続くように感じられるほど、長かった。
 森の中だからか、少し寒いし、目まいが一瞬したし――。


「想、がんばって! 息荒いわよ」
「う、うん……」


 泉ちゃんが手を貸してくれた。――だから、なんで皆こんなわたしなんかに優しく接してくれてるんだろう。
 らせん階段を抜けた先は、道が二つに分かれていた。どちらに進めばいいのか、なんて分からない。けれど、突然友樹君のデジヴァイスが光りだす。


「こっちに行け、ってことだよね」


 デジヴァイスに従って歩き出す。でも、木々が道を遮って行き止まりになっているところに出た。すると今度は純平さんのデジヴァイスが木々をどかしてくれる。
 霧で真っ白で何も見えないな、と困れば、泉ちゃんのデジヴァイスが霧を晴らしてくれる。
 な、何この便利アイテム。

 デジヴァイスに従って、着いた先はお城だった。森に、こんなところがあるんだ。
 でも門は開かない。


「あ、これもデジヴァイスでぱーっ、て開くんじゃない? ぱーっ、て」


 わたしがデジヴァイスを天にかかげる。
 ――でも、実際門が開いたのは、輝二さんのデジヴァイス。
 う、うわああわたし痛い! 恥ずかしい!


「想はん、はよう行くでー」
「置いてっちゃうよ〜」
「は、はーい……」


 わたしのデジヴァイスは光らなかったな。スピリット、持ってないからかな――あれ?


「わたしのデジヴァイスが――光ってる!」


 デジヴァイスの光が指しているのは、森のなかだった。えっ。
 わたしは、門を出て階段から森をのぞき込んだ。でも、そこに何かがあるようには見えない。


「想〜、何みてんの〜?」
「うわ、ネーモン近づいたらあぶな……ぎゃあっ」
「想!」
「うわああっ」


 ――わたし一人が落ちたのを皮切りに、全員、森の中へついらくしました。
 ひどい。ネーモンがこっちに近づきすぎるからだよっ!


「みんなっ、大丈夫か!?」


 すかさず拓也君が気を遣ってくれる。えらいなあ。
 ちょうどうまく木の枝のところに落ちたため、ひどいケガとかはしてなかった――けど、何でわたしの下は柔らかいん


「想ちゃん、早くどいてくれ……! 泉ちゃん、これは違うから! 浮気じゃないから!」
「純平、それすごくどうでもいいわ」


 じゅじゅじゅじゅ純平さんが下にいた!
 わたしが純平さんのお腹の上に馬乗りになってる状態だった。泉ちゃんとかひどい言葉で純平さん切り捨ててるし。あ、純平さん泣いた。


「……あれ、ここから木の中に入れるよ!」


 友樹君が言った。確かに、友樹君の近くの木には、大きな空洞があって、階段も見える。わたしのデジヴァイスの光は、そこを指している。
 みんなは、そこに入ろうとした。けど、わたしは。


「こ、こわくて立てない……!」
「想ちゃんが動かないとオレが行けないよ……」
「あんたたち、早く来なさいよー」


 いくら太い木の枝だからと言って、ここで立って歩けるほどわたしは強くない。高いとこニガテ。
 ずっと動けないから、純平さんの上に馬乗りなままだし……どーしよ。


「想」
「え」
「あっ」


 さっき空洞のなかに入っていった輝二さんが、引き返してわたしの両腕を掴んで無理やり立ち上がらせた。


「歩けるか?」
「し、死にそうだけどがんばる……」


 顔が近い。なんか、恥ずかしい。
 ……どうして、この人はわたしなんかのためにここまで優しくしてくれるんだろう。
 とにかく、わたしは輝二さんのおかげで空洞のなかへ入ることが出来た。純平さんが、「オレは放置かよ!」って言いながら、あとを追いかけてきた。ご、ごめんなさい……!


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