へんなヒト
着いたのは、そよかぜ村という所。駅のホームのすぐそばには、樹齢何百年ってかんじの大樹があって、それ以外にも辺りを見渡せば沢山の木々が空に向かって枝葉を伸ばしている。緑に溢れている場所だった。[1/2] あの声は森のターミナルへ行け、と言っていた。けれど、ここはそよかぜ村、という地。森のターミナルという場所とは違うみたいだった。 わたしより先に下車したバンダナさんは、一人ですたすた歩いていて、わたしも何となくその後ろを付いて行った。するとバンダナさんは、わたしに気づいて振り返る。 「ついて来るな」 バンダナさんは、眉間にシワを寄せてしかめっ面。 「だ、だって……」 「ここはお前みたいなのが来るところじゃない。そのうちまたトレイルモンが来るだろうからそれに乗って帰れ」 な、なんか。本当にこの人感じ悪いなあ。トレイルモンってさっきの電車かなあ。 そんな言い方をされると、わたしは何も言えなくなってしまった。だから、それ以上バンダナさんを追うのをやめ、ホームのベンチに腰掛けた。やがて、彼の姿は見えなくなった。 夢だと思っていた世界は、本当に理解できなかった。ここには人間はほとんどいないだろう。元いた場所に帰れるのならば、帰りたかった。 この世界に来た目的も、意味もよく分からない。 「おい人間!! お前金持ってんだろ!」 「へっ」 ベンチに座って、あの灰色の機械を触っていたら、眼下から声がした。誰かと思って見てみたら、そこには頭が紫色のキノコみたいな不思議生物がいた。それが、何故かわたしにメンチ切っている。 これはもしかして、カツアゲ、ってやつ? 「お金は持ってないよ、食べ物もないし」 「なんだよつまんねえヤツだな!! 他の人間はおチョコというの持ってるじゃねえか」 「え……知らないけど」 他の人間ってことは、バンダナさん以外にも人はいるんだな。 それにしてもカツアゲされてるっていうのに、この不思議生物は全然怖くなかった。迫力に欠けるというか、なんというか。 わたしは若干にやつきながら生物を眺めていた。するとそれがかんに障ったのか、ばかにすんなー! と叫んだ。 「か、金かおチョコ!!」 「だから持ってない、ってぎゃーっ」 突然キノコのモンスターが拳をわたしに振りかざそうとし、わたしは走って逃げた。と言っても、わたしは走るのが速いわけじゃないからすぐ追いつかれそうになる。 「え、えーいっ!」 わたしは、走り続けて、大樹の枝に目をつけた。そして、その枝の上を登る。高い枝の上まで登れば大丈夫かもしれない! 下からは降りてこい! と罵声が聞こえ、キノコも追いつこうと枝を登り始める。ど、どうしよう! キノコは足が短いから登れないって思ってたのに、また追いつかれはじめている。うう、わたしってばか? 「覚悟しろっ!!」 「い、いやーっ!」 枝の上まで追いつめられて、ずるりと足がすべった。落ちる、と理解すると同時に、走ってくる人の姿が見えた。 「お前、何してるんだ!」 「バ、バンダナさん……!」 下には、バンダナさんがいた。そのままわたしは下に落ちていく。バンダナさんが、わたしを受け止めようと駆ける。 そして、ずしんと衝撃。――わたしは、バンダナさんに抱きとめられる形で落ちていた。 「あ、ありがと、ございます……っ」 バンダナさんの顔が近い。恥ずかしくなって、わたしは真っ直ぐに目を見てお礼を言うことができなかった。バンダナさんはため息をついて、わたしをそっと降ろした。 NOVEL TOP ×
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