おわりのはじまり
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 この不可思議・非現実的な状況を、夢だ、とわたしは無理やり思い込むことにした。というか、そうでもなきゃ絶対あり得ない光景が沢山瞳に写っている。喋るカエル。RPGみたいな街並み。見たこともないようなへんな色の果実。
 宛もなくふらふら歩いていると、駅のような場所にたどり着いた。そこにはちょうどベンチがあったから、休憩の意味合いも込めてわたしはそこに座り込む。


「……久しぶりに歩いたから疲れちゃった」


 普段は病弱で家にいることが多いわたし。学校でも休み時間は図書室だし。だから、一人でこんなに歩くなんて滅多にないことだった。 座ってから数分で電車が着いた。その電車も非常識なデザインだった。顔がついてて、喋る電車。


「ほら嬢ちゃん、乗って乗って!」
「あ、は、はいっ」


 電車さんに急かされたわたしは、今後どうすればいいのかも分からないのに車内に飛び込んでしまった。わたしが飛び乗った車両のなかには、誰もいない。温度管理がしっかりされてて心地よかった。
 わたしは何となく車両を渡り歩き始めた。他に人が乗っているか、とか思いながら。
そしてわたしのその考えは、見事にあたった。隣の車両には、わたしと同い年くらいの男の子がいた。髪は少し長めで頭にはバンダナを巻いている子。何となく無言でいるのも感じが悪い気がしたから、わたしは怖かったけれど、声を掛けてみた。


「こ、こんにちは……?」
「……お前も森のターミナルへ行くのか」


 って、早速会話が噛み合わない。挨拶してくれないのこのバンダナの人は!
 こんにちは、って、ちょっと挨拶しただけなのに、いきなりわけの分からない単語が飛び出してくるなんて。いや、森のターミナルって何。


「森のターミナル、って、何ですか?」
「お前は呼ばれたんじゃないのか?」


 こっちに一切説明をせずにわたしに問うバンダナさん。じ、自分勝手な人だなー。
 返答に困って沈黙していると、急にポケットに入っていた携帯が揺れた。


「あ、れ……携帯が変になって、」


 ──比沢想さん。森のターミナルを目指しなさい

 携帯、だったものはそう言った。それは、わたしがこんなところに来る前に受信したメールの声と全く一緒だった。
 森のターミナル。この、バンダナさんも言っていた場所。そこに、一体何があるというのか。


「森のターミナル、って何ですか、どういうことなんですか?」
「……分からないから、俺はそこへ向かうんだ」


 バンダナさんはそう言うと、わたしの携帯だったものと同じ機械を見つめた。
 この機械は何だろう。濃度の違う灰色二色で構成された機械。バンダナさんのものは、白と紺色の機械。違いは色だけみたいだった。
 わたしはバンダナさんに色々なことを聞きたかったけれど、バンダナさんに拒絶されているような気がして、それ以上声をかけることができなかった。あの人は、きっと人と距離を置いている。わたしと、同じだ。

 それからわたしは、バンダナさんがいた車両とは違う車両に腰を下ろした。そのまま、電車さんのなかで夜を迎えた。
 いつもならとっくのとうに寝ているであろう時間になっても、わたしはなかなか寝付けずにいた。一時は無理やりこの状況を夢だと思い込むことにしたけれど、いざ自分以外の人に出会ってしまうと、そういう風に割り切ることができなくなっていた。――でも、この状況はやっぱりありえないし。それから、色々と考えているうちにわたしの意識は沈んでいく。目を瞑ると、本当にわたしは眠りの世界へ旅立った。



「嬢ちゃん、終点だよー?」


 その声で目が覚めた。寝起きでぼーっとする頭で、わたしは今の目の前の光景について、考えた。なんで、電車のなかに――、そうだ。
 わたしは、何故か気づいたら知らないところにいて、電車さんに乗り込んだんだ。そこで、バンダナさんに出会った。今聞こえた声は、電車さんのものだった。
 ふと窓の外に目をやれば、ベンチにいたバンダナさんがあくびをしていた。バンダナさんとわたしの目が合う。バンダナさんは目を逸らして、立ち上がり歩き出した。
 まだまだ分からないことだらけだ、だからと言ってずっとこの電車さんの中に居座るわけにもいかない。だから、わたしも、バンダナさんの跡を追うように、外の世界へと足を踏み出したのだった。


100824
まだまだ謎だらけ
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