へんなヒト
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「弱い者いじめはやめろ!」
「よ、弱い者って!」

 キノコに向かって、バンダナさんが言う。それにしても、弱い者って。い、いや確かに間違ってないけどね!? ちょっとショックだよわたし。
 バンダナさんはわたしの前に立ちはだかり、地面に落ちていた折れた木の枝を拾う。そしてそれをキノコに振る。


「おいキノコ野郎、逃げるなら今のうちだぞ」

 そんなことを言いながらバンダナさんはキノコに攻撃していった。モンスターと戦っているのに、とても強かった。この人、本当に人間なのかって思うほどだ。
 バンダナさんがキノコに向かって木の枝を振ると、キノコはたたらを踏んでよろめいた。その瞬間、バンダナさんはキノコの面を叩きつける。


「ふッ」
「ぐぅ……! おっ、覚えてろー!」


 ――すると、不思議キノコは敵わないと悟ったのか、昔の漫画の悪役みたいな捨て台詞で逃げ去っていく。何だか、あっという間の出来事だった。
 わたしは消えていくキノコのモンスターを見てから、バンダナさんに向き直る。


「た、助けてくれてありがとうございます。そうだ、名前言ってませんよね、わたし、比沢想、っていうの」
「……さっき、あのキノコ野郎の罵声が聞こえたから来た。お前も、早いうちに帰れ」


 ぷい、と視線をそらされた。な、なんだろこの助けてくれたのに全てぶち壊されるような言葉。いい人なのか感じ悪い人なのか。なんだか変な人。
 冷たいその言葉に何と返そうか悩んでいると、バンダナさんの手の甲に小さなかすり傷があるのが見えた。わたしは、彼に近づき、手を伸ばす。


「ケガして……、」


 そのとき、だった。誰かが喋る声が聞こえた。バンダナさんは眉を潜め、わたしの手を払いのけた。
 声はだんだん近づいてきて、なんて言ってるのかわたしたちにもはっきり聞こえるくらいになった。声のほうには、人間がいた。


「そよかぜ村? じゃあここは……」
「森のターミナルじゃない」

 バンダナさんがその人たちの話に口をはさみ、人間さんもこちらの存在に気付いた。

「輝二くん! ……それに他にも女の子がいるのね!」
「新たな闘士のスピリットの持ち主か!?」
「てか、お前ら、やけに近いな!」


 髪の長いきれいな女の子が真っ先にわたしたちの元へきて、大きな男の子がわたしとバンダナさんについて疑問符。――そうだ、わたしはバンダナさんに近づいたままだった。
 そしてそのまま、彼は一人で歩き出した。


「どこへ行くの!」
「どこへ行こうと俺の勝手だ」


 そして、相変わらずのスーパー冷たい態度で、一人で歩く。


「何よ、あの態度!」
「あんなブアイソーなやつほっときなよ!」

 髪の長い女の子が怒って、さらにもう一人の大きな男の子も少しいらいらした様子で言った。

「こ、こうじさん、待って!」


 こうじ、とさっき呼ばれていた彼の名前を呼ぶ。
 女の子たちも気になった。でもそれ以上にこうじさんが気になった。とっても感じが悪い人だけれど、わたしを助けてくれたから。
 女の子たちとすれ違う瞬間、一言、ごめんねと呟いて、わたしは走った。


「何なのかしら、あの子……」
「二人揃ってヘンなやつだよ、まったく!」


*


「ついてくるな、帰れと言ったはずだ。俺は人が嫌いなんだ」
「だ、だって……」
「せめてあいつらのとこに戻れ」


 相変わらず物言いが冷たくて、好きになれない。けれど、彼は本当は優しい人なのかもしれない。――冷たい態度なのは、人と関わることが好きじゃないから?
 すごく、自分の殻に包まれたひとだと思った。叩いても割れそうにない頑丈な殻ってかんじする。
 たぶん、わたしはこうじさんに似ているところがある。だから、こうじさんが気になってしまうんだ。


「じゃあせめて、森のターミナルとか、スピリットとかのことを教えて」


 謎の声の案内。さっきの子たちのなかにいた白い不思議生物が言っていたスピリット。どちらも分からないままなんて府に落ちない。
 最初、わたしはこの世界が夢だと思っていた。けれど、そうじゃないことは薄々悟り始めていた。この森の匂い、聞こえてくる音、こうじさんの腕の感触、こうじさんの微かなかすり傷。すべてが、リアリティに溢れていた。
 わたしは真剣だった。するとこうじさんは、渋々この世界についての話を語り始めた。そしてわたしは全ての話を聞き終えたあと、後悔することになる。

100826
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