生命は其処にあるだけで美しい
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デジタマを守れ! 消えゆく命の奇跡
 最近になって、想の様子が変わった。
 想は、何も言わずに一人で空を見上げていることが多くなった。今も、そうだ。
 トレイルモンに乗って移動しているうちに夜になったので、拓也たちはそのまま車内で眠ろうとしていた。
 だが、想だけは違った。

『今日は、わたし一人だけでこっちにいるね』

 と、言い切って隣の車両に移動してしまった。一人だけで、とわざわざ強調して言われては、拓也たちはそれ以上何も言えなかった。


「……想、大丈夫なのか?」
「さいきん、ずっとあの調子よね……、無理もないけれど」

 拓也と泉が、輝二に訊ねる。
 二人は隣の車両を見た。ドアの窓ガラスの先に、想が見えた。

「大丈夫じゃ、ない。……だから、はやく、ロイヤルナイツを倒さなくてはいけないんだ」

 輝二は呟いた。
 ――想の笑顔を取り戻すためにも、勝たなくてはいけない。


*

 翌日。
 想は起きると再び皆のいた車両に戻ってきた。輝二は安心したが、素直には喜べなかった。
 輝二は想を安心させたかった。だが、すべてが解決するまで、想が心から落ち着くことはないだろう。
 俺が守る、そんなこと言うだけならば簡単だ。だが今の俺はそれだけの力があるのか――。

「想、……」
「……どうしたの、輝二くん」

 名前を呼んだはいいが、輝二は何も言えなかった。想は曖昧に笑っただけだった。

 友樹は窓の外を見て、勝春たちが無事に帰れたか心配していた。
 外には、どこまでも果てしない空が広がるのみであった。今やデジタルワールドは線路だけを残し、大地や海が消滅してしまっている。


「もう、こんなにスキャンされてしまったんだな」
「ロイヤルナイツのせいか……」


 輝一と輝二は、外の世界を見ながら言った。ロイヤルナイツの力は、あまりにも強大だった。
 ロイヤルナイツ、と聞いて想の肩がぴくりと揺れた。デュナスモンやロードナイトモンにやられた仕打ちが蘇り、想の心は恐怖でいっぱいになっていた。


「……おれたちあいつらに勝てるのかなあ」


 不安がっていたのは、想だけではない。純平が顔をひそめて言う。彼も、ロイヤルナイツとの圧倒的な差に弱気になっていた。
「そうねえ、」と泉が言いかけたとき、拓也が立ち上がった。


「勝たなくちゃ、いけないんだ! 勝たなくちゃいけないんだ、どうしても……」


 拓也は、自分に言い聞かせるように言った。そして、想の方を見やる。
 想は相変わらず俯いたままだった。想を安心させるようにか、泉が想の手を握っていた。
 ロイヤルナイツを倒せずにいること、デュークモンのこと、現実世界にいる望のこと。それら全てに対する不安が、今の想に降りかかってきているのだろう。――想のことを考えると、より一層拓也の勝たなくてはいけない、という念は強くなった。無論、同じことを輝二も考えていた。


「そうじゃ、この先にはじまりの街があったはずじゃい」
「はじまりの街?」

 拓也が聞き返すと同じタイミングで、荷物置きにぶら下がっていたネーモンがボコモンの上に落下する。そして、ネーモンははじまりの街の説明をする。

「デジモンが生まれる街だよ!」
「へえー、」
「デジタマが戻っていく場所なのね!」
「……まさかとは思うが、はじまりの街までスキャンされてはおらんだろうな……」

 ネーモンの下敷きになったボコモンが言った。
 トレイルモンのアングラーは、鳴き声を挙げて線路の上を進んでいく。今走っている場所のデータは既に奪われ、線路があるのみであった。しかし、少し先にははじまりの街の大地が広がっていた。
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