生命は其処にあるだけで美しい
最近になって、想の様子が変わった。[1/4] デジタマを守れ! 消えゆく命の奇跡 想は、何も言わずに一人で空を見上げていることが多くなった。今も、そうだ。 トレイルモンに乗って移動しているうちに夜になったので、拓也たちはそのまま車内で眠ろうとしていた。 だが、想だけは違った。 『今日は、わたし一人だけでこっちにいるね』 と、言い切って隣の車両に移動してしまった。一人だけで、とわざわざ強調して言われては、拓也たちはそれ以上何も言えなかった。 「……想、大丈夫なのか?」 「さいきん、ずっとあの調子よね……、無理もないけれど」 拓也と泉が、輝二に訊ねる。 二人は隣の車両を見た。ドアの窓ガラスの先に、想が見えた。 「大丈夫じゃ、ない。……だから、はやく、ロイヤルナイツを倒さなくてはいけないんだ」 輝二は呟いた。 ――想の笑顔を取り戻すためにも、勝たなくてはいけない。 * 翌日。 想は起きると再び皆のいた車両に戻ってきた。輝二は安心したが、素直には喜べなかった。 輝二は想を安心させたかった。だが、すべてが解決するまで、想が心から落ち着くことはないだろう。 俺が守る、そんなこと言うだけならば簡単だ。だが今の俺はそれだけの力があるのか――。 「想、……」 「……どうしたの、輝二くん」 名前を呼んだはいいが、輝二は何も言えなかった。想は曖昧に笑っただけだった。 友樹は窓の外を見て、勝春たちが無事に帰れたか心配していた。 外には、どこまでも果てしない空が広がるのみであった。今やデジタルワールドは線路だけを残し、大地や海が消滅してしまっている。 「もう、こんなにスキャンされてしまったんだな」 「ロイヤルナイツのせいか……」 輝一と輝二は、外の世界を見ながら言った。ロイヤルナイツの力は、あまりにも強大だった。 ロイヤルナイツ、と聞いて想の肩がぴくりと揺れた。デュナスモンやロードナイトモンにやられた仕打ちが蘇り、想の心は恐怖でいっぱいになっていた。 「……おれたちあいつらに勝てるのかなあ」 不安がっていたのは、想だけではない。純平が顔をひそめて言う。彼も、ロイヤルナイツとの圧倒的な差に弱気になっていた。 「そうねえ、」と泉が言いかけたとき、拓也が立ち上がった。 「勝たなくちゃ、いけないんだ! 勝たなくちゃいけないんだ、どうしても……」 拓也は、自分に言い聞かせるように言った。そして、想の方を見やる。 想は相変わらず俯いたままだった。想を安心させるようにか、泉が想の手を握っていた。 ロイヤルナイツを倒せずにいること、デュークモンのこと、現実世界にいる望のこと。それら全てに対する不安が、今の想に降りかかってきているのだろう。――想のことを考えると、より一層拓也の勝たなくてはいけない、という念は強くなった。無論、同じことを輝二も考えていた。 「そうじゃ、この先にはじまりの街があったはずじゃい」 「はじまりの街?」 拓也が聞き返すと同じタイミングで、荷物置きにぶら下がっていたネーモンがボコモンの上に落下する。そして、ネーモンははじまりの街の説明をする。 「デジモンが生まれる街だよ!」 「へえー、」 「デジタマが戻っていく場所なのね!」 「……まさかとは思うが、はじまりの街までスキャンされてはおらんだろうな……」 ネーモンの下敷きになったボコモンが言った。 トレイルモンのアングラーは、鳴き声を挙げて線路の上を進んでいく。今走っている場所のデータは既に奪われ、線路があるのみであった。しかし、少し先にははじまりの街の大地が広がっていた。 NOVEL TOP ×
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