勇気は氷より強く
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「友樹」
「……!」

 後ろから声がした。男の子の声だった。もしや、と考えて振り返ると、そこにいたのは鉄平くんだった。


「……な、何?」
「何なんだよ、お前のツレはよぉ。弱そうなデジモン連れて、オレたちに帰れだなんて。……おい、アンタ。よくもさっきはあんなことを言ったな」
「そのことは悪いと思ったよ、ごめんね。さっきは……わたしも、考えなしにあんなことを言ってしまって……」


 鉄平くんの言葉の矛先がわたしに向かった。だから、わたしは素直に謝った。でも鉄平くんは納得できないようで、わたしを睨んだままだ。そして、怒り収まらず、という様子で大きなため息をつく。


「……あのっさあ。オレと友樹、二人だけで話があるんだよ。どっか行ってくんない」
「え……」

 そうは言っても、このまま立ち去るのは気が引けた。わたしは、横の友樹くんを見た。すると、友樹くんは行っていいよ、と言った。


「……大丈夫。ボク、弱くなんかないから。想さん、行って」
「平気、なの?」
「もちろん」

 友樹くんは、わたしにVサインをした。
 わたしは立ち去ったほうがいいんだろう。このまま、友樹くんにの意見に逆らってこの場にいても、彼のプライドが傷付くだけだ。
 わたしは、歯がゆさをおぼえながらも静かにその部屋から出て行った。


「……あ」

 出て行ったときに、勝春くんとすれ違う。わたしは謝ろう、と思ったけれど彼はわたしを一瞥するとすたすた歩いて行ってしまった。



 建物から出てすぐ、大きな揺れを感じた。
 震源地、というか音の聞こえたほうにわたしは走る。皆は既に駆けつけてきていて、皆の視線の先にはサジタリモンさんと、大量のデジモンがいた。


「あ、あれって……!?」
「さっきはよくもやってくれたな、ナマイキなガキども」


 サジタリモンさんは、ケンタルモンというデジモンを従えてやって来た。何十体もいる。一応サジタリモンさんにもあれだけの数を呼べるほどの人脈があったんだなあ、とか失礼なことを思ってしまう。今も身ぐるみとか着ぐるみとか言い間違えていたし、ちょっと残念なデジモンさんだ。
 サジタリモンさんは掛け声をして部下のデジモンを鼓舞させる。わたしはポケットからデジヴァイスを取り出し、戦う準備をした。


「お前たちは下がってろ!」


 ――と、拓也くんたち、勝春くんたちの声が重なる。
 勝春くんの隣にいた友樹くんは、不安そうにわたしたちを見る。

「何言ってんだよ! 下がるのはお前たちだろ!」
「ふざけるな! お前たちこそ下がれ!」
「……私が相手します。こんな所で危険な目に遭わせる訳にはいきません!」


 すると、エンジェモンさんが飛び出していった。
 エンジェモンさんはあっという間にケンタルモンを倒していく。空を舞い、戦う姿はとても優美だった。

「ねえ、どうする?」
「ど、どーしよう」

 泉ちゃんとわたしは顔を見合わせる。
 でもこのままってわけにもいかない。ふと勝春くんのほうを見ると、お前たちは黙って見てればいいんだ! とか言い出す始末。


「頼んだわよ、エンジェモン!」
「……あっ!」

 エンジェモンさんが、ケンタルモンにやられて、倒れかけた。


「……かかるんだ!」
「あっちにもいたの……!?」


 エンジェモンさんの方を見ていたから気付かなかったけれど、違う方向からケンタルモンの軍が走って来ていた。そしてそれは、友樹くんたちに向かってやって来ている。

「しまった……!」
「どこを見ている。お前の相手はこっちだ!」

 エンジェモンさんも追い詰められようとしている。
 友樹くんたちは、呆然と固まってしまっている。


「何をしている、逃げろ!」

 純平さんが叫んだ。そこで、やっと三人は我に返ったらしく走り始めた。
 このまま逃げ切れば――と思っていたけれど、ケンタルモンの一体が手からエネルギー弾を放とうとしていた。このままじゃ、やられる。


「あ、危ない!」
「……ッ!」
「鉄平!」


 ケンタルモンがエネルギー弾を放つ。三人には、ぎりぎり当たることはなかった。でも、鉄平くんは転んでしまった。立ち上がってまた走る、にしても時間が足りない――!!


「助けて、勝春……!」

 鉄平くんが勝春くんに手を伸ばす。勝春くんは、動揺している。その間にもケンタルモンたちがどんどん彼らを追い詰めていっている。
 勝春くんは動けずにいた。肩が震えている。ケンタルモンが、またエネルギー弾を放った。

「あぁ……!」


 ――あのままじゃ、死んじゃうよ!
 そう思った時、ひゅっと友樹くんが飛び出していった。友樹くんは、鉄平くんを素早く抱えてそのまま転がり込む。――攻撃は避けられた。


「大丈夫!?」
「友樹、お前……っ!」


 鉄平くんは何か言いたそうにしていた。
 友樹くんは、ケンタルモンと向き合う。そして、彼はデジヴァイスを取り出した。


「これ以上、ボクの友達に手出しはさせない!」

 友樹くんはデジヴァイスを手にかざし、コードを読み取っていく。

「スピリット・エボリューション!」

「ブリザーモン!」


 友樹くんがブリザーモンに進化すると、勝春くんも鉄平くんも驚き言葉を失う。
 当然、ブリザーモンはケンタルモンに負けるわけがない。オノを一振りすると、ケンタルモンの何体かがなぎ倒される。


「よし、オレたちもいくぜ!」
「おう!」
「スピリット・エボリューション!」

「アグニモン!」
「ヴォルフモン!」
「フェアリモン!」
「ブリッツモン!」
「レーベモン!」
「シキモン!」


 わたしたちは皆人型の闘士になって、そしてそれぞれケンタルモンの群れの中に突入していく。


「色即是空!」


 今まで何度も戦ってきたシキモンたちにとって、ケンタルモンはそれほどの脅威ではないようだった。必殺技を唱えると、周りのケンタルモンはバタバタと倒れていく。

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