■ 07

「わたしね、大きくなったらおかーさんになりたい!」

「ーーーーなら良い子だからなれるわ」 

幼い頃、母の膝の上で夢を語った。
母が呼んでくれた私の名前はもう忘れてしまった。
生きていた頃の記憶はもうこれしかない。



人や物でも長く関わると情が移ってしまう。
関係を結ぶなら一時的な物でいい。
私は渡り鳥。誰にも飼われない、帰る場所もない。





組織の命令で初めて仕事をしたのは銀行の顧客リストを流出させる事だった。他人の口座のお金を手に入れ更に個人情報を欲しい所に売り、また金を得る。どこまで腐っていればそこまでできるのか分からなかった。顧客情報を売る組織の連中も犯罪と分かってて買う連中も反吐が出そうだった。それを暴いてしまった私も含めて。

「よくやったシギ」

「ありがとうございます」

ボスから直々に褒められて得たのは何も無かった。
そんなの嬉しく無い。死にたくなかったからやっただけ。


初仕事を終え、私は同じ建物内にある小さな部屋に戻る。表向きは普通のビルだがここは組織の本部でここでは海外に向けて臓器を売り払う窓口だ。他の場所では誘拐されてきた子供を監禁する建物や臓器を取り出す施設もある。ドナーに向かないとわかってからずっとここで暮らしてきた。

シギになってから小さな個室を与えられた。あるのはベッドとシャワー室、パソコンに小さなキッチン、それと唯一外界を知れるテレビだけ。それまではドナーに向かない他の子供との大部屋だった。みんな死んだから殆ど個室みたいなものだったけど。


誘拐されてからシギになるまで朝から晩までクラッカーの知識を叩き込まれた。組織の奴らは私にクラッカーとして最高傑作を作り上げたと言っていたけど、もし暗殺者を育てる目的だったら私はとっくに死んでいただろう。偶然が私を救った。

私に弱点があるなら一般教養が無い事だ。ずっとクラッカーとして必要最低限の勉強とかして来なかったから漢字が読めなかったり、言葉の中にある含んだ意味を理解出来ない時がある。シギになってからテレビも与えられたので電波を通じて社会を学んでいった。テレビを点けると特集で警察という仕事に密着している番組をやっていた。

けいさつ?
私は彼らの仕事が気になり自分のパソコンで調べる。テレビを与えられたのは良かったが知識が乏しくて毎回調べるのが日課だった。

警察、社会の秩序を守る正義の味方。それを知ったとき初めて私の中に希望が芽生えた。もしかしたら私を助けてくれるかもしれない。


私はまず警察についてより事細かく調べた。組織構成から隠語まで。そして組織の壊滅には公安の協力が必要だとも分かった。そこから警察内部の情報に入り込み有能な人材を選出して彼を見つけた。

「降谷零…」

年も若く公安のエース、トリプルフェイスを持つ有能な人材。これは賭だ、未来を賭けた一世一代の大勝負。私の今後の人生をまだ見知らぬ彼に賭けてみよう。

パソコン越しに見る彼の顔を見ながら私は初めて他人に期待した。

失敗は許されない。私は念密に計画を立てた。組織の悪事を事細かに調べ上げ、奴らが言い逃れできないように取り引き場所を警察に押さえてもらえるように日時も調べて降谷零宛に警察庁へ送った。潜入捜査中は偽名を使っているらしいから降谷零の名前なら確実に中を見てくれるだろう。そしてその日を待った。


組織が壊滅した日、私は十数年ぶりに外へ出た。シギになっても外出は禁じられていたけど今まで大人しくしていたから監視などは無に等しかった。自分でも驚くほど簡単に抜け出せた。私はただ死にたくなくて従順に生きてきたから組織を裏切るなんて誰も考えなかっただろう。

最後の仕上げだ自分を守る為に降谷零と取り引きしなければならない。別にボス達の情報も一緒に送ってよかったが、警察が私を追ってくる可能性を考えると取り引きする必要があった。それに助けてくれるであろう彼を一眼見ておきたかったのもある。取り引き場所にきた私は降谷零を探した。きっと遠くから全体の見える位置にいるだろう。


彼を見つけて、わざと追いかけさせた。


彼に静止を求められ振り向くとそこには降谷零がいた。彼を見たとき胸が高鳴ったのを覚えてる。一目見た時に確信した彼は有能な人間だ。きっとあの組織を壊滅してくれる。

「交渉成立ね。ロックは嘘よ、さよなら降谷零」

彼にUSBを渡した後、振り返らずに私は夜の街を駆けていった。身体を動かす事は好きじゃない。でも今日はとても体が軽かった。まるで鳥になったように、飛べはしなかったがいつまでも私は走れた。事前に用意していた部屋に着いて窓を開ける。いつの間にか朝日が出ていてそれを見て私はやっと実感できた。


私はやっと自由になれたのだ。



降谷零と取り引きをした翌日組織が壊滅したと報じられた。日本で誘拐した子供の臓器を海外で売っていたニュースは一面に取り上げれた。行方不明の子供と聞いて両親は私の事を思い出すのだろうか。組織を壊滅させれば少しはスッキリすると思ったが何の感情も湧かない。暗闇にいすぎて心まで失ったかもしれない。それで良かったかも、感情によって気分を左右されるのは嫌だ。

けれど目的は達成できた。これで組織の奴らも警察も私を追って来ない。私は賭けに勝ったのだ。降谷零を選んで良かったと心の底から思った。


けれど違った。あの時は降谷零を選んで正解だと思ったけど人選ミスをしてしまったらしい。


後日いきなり私の部屋を訪ねてきた彼は私を絶望の淵へと突き落とした。

「君にどんな理由があっても犯罪だ。僕は君を絶対に逮捕する」

彼にそう言われた時、息が出来なかった。まるで呼吸の仕方を忘れたみたいだった。逮捕すると言われて動揺したせいか、する気も無いのに警察内部の情報を壊すと言ってしまった。

「そんな事してみろ、僕は君を許さないからな」

怒りで燃える目と言葉に血の気が引いた。彼が怒るのも当然だ。でもいざ彼からそう言われると胸の奥が締め付けられるように苦しかった。期待していた分、正義の味方の彼から私も組織のやつらと同じに思われる事が辛かった。組織にいたから覚悟していたはずなのに。同時に理解もしていた、彼は私と真逆の立場にいる。遠い存在、分かってもらうなんて無理なんだ。

そうね、やっぱり警察は私を犯罪者としてしか見ない。期待した私が悪いんだ。

無くしたはずの心を乱されてるみたいで嫌だった。


しょうがない、彼は仕事をしているだけ。私がアイツらに言われてやったのとは違う正義の仕事を。

彼にこれ以上関わるのが嫌でその日の内に引っ越した。

もう2度と彼に会いたくない。
それなのに何故か彼は再び私の前に現れた。



20.0927

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渡り鳥は救われたい



   
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