■ 07-01

普段は目覚ましのアラームより早く起きるが、今日は違和感を感じてなのか、それよりも早く目が覚めてしまった。

「……名前?」

珍しく名前が胸元にいた。寝起きの目を擦って夢では無いと確認してもやはり名前がぴったりと俺の胸元に張り付いている。


数時間前小さな家出をして疲れたのか名前は家の近くの駐車場に着いても眠ったままだった。シートベルトを外しても起きなかったので抱っこしてそのまま帰宅した。出迎えてくれたハロも名前が帰って来た事に安心したのか自分のベッドへ入り、同じ様に名前も俺たちのベッドへと運んだ。

本来なら起こすべきなのだが、名前が私服で寝ていてもそこまで気にするタイプでは無いし、疲れている名前を起こすのは躊躇われた。俺も風呂は適当に済まし、すやすやと眠る名前を眺めながら眠りについた。



俺が寝ぼけて名前を引き寄せてしまったのか、名前が温もりを求めて寄って来てしまったのか。頭頂部しか見えないから寝てるのか起きているかも分からない。

だがどっちにしろ、この状況は幸運だ。名前の背中に手を回し、ここぞとばかりに名前の温もりを堪能する。昨夜あの男の家で拒否された傷を癒そう。

迎えに来たのに手を振り払われ、あの男を庇い、運ぶ時も嫌だと抵抗された。あれは結構傷ついた。これでも普段は手を出さないように堪えているから不可抗力での流れでなら許されるような気がした。

「おはよう……零」

名前の温もりで癒されていると、寝ていると思っていた彼女から返事が返ってきた。

「おはよう、名前。珍しいな、君が俺にくっついてくるなんて。また怖い夢でも見たか?」

慰めるように名前の頭を撫でる。たまに組織にいた頃の悪夢を見て魘されて起きてしまうからよく頭を撫でるのが常になっていた。安心するのか恥ずかしがり屋の彼女も身を委ねてくれる事が多い。もう少しこのままでいたいが、そろそろもういいと言われて離れてしまうだろう。だがいくら時間が経過しても名前が俺から離れる事は無かった。

「名前?」

「……ん?」

「何かあったのか?」

いつもなら過度なスキンシップは恥ずかしいとすぐ拒まれてしまうが今日は珍しくずっとされるがままだ。いつもと違う彼女に戸惑いつつ、とりあえず名前の顔を窺おうと少し離れると頬がいつもより赤かった。まさかと思い額に手を当てると体温が高い様な気がした。

「少し熱っぽくないか?ちょっと待っててくれ、今体温計を持ってくるから」

確か体温計はリビングにあった筈だ。俺は起き上がり、ベッドから下りようとする。だがすぐに服の裾を掴まれそれを阻まれた。振り向くとそこには苦しそうな、悲しそうな表情を浮かべた名前がいて、見た事のないその表情に思わず生唾を呑む。

「行かないで…零。すごく、寒いの」

名前の言動に言葉を詰まらせる。薄く膜を張った潤んだ瞳に少し乱れた呼吸。加えて紅潮した頬は明らかにいつもの名前では無かった。

「名前…少しだけだから」

「そばにいて…お願い」

普段あまり言われない言葉を言われると、益々離れられない。だかいつまでもこのままではいられない。自分の気持ちに踏ん切りを付ける為に名前に覆い被さるように一瞬だけ強く抱き締め、彼女の手を解きそしてすぐに離れた。

「あ…」

「すぐ戻る」

名前の縋る様な目線に後ろ髪を引かれながら、ベッドから降りてそのまま寝室から出て行く。名前のお気に入りのマグカップに水を入れレンジのスイッチを入れる。そしてリビングへと向かい、体温計を取り出して寝室に戻った。


「名前、これを脇に挟んでくれ。こんな感じに」

「ん…」

差し出された体温計を名前はぼんやりと眺める。いつもの名前なら分からない言葉は鸚鵡返しで聞いてくるのにその気力も無さそうだ。体温計を受け取った名前はもぞもぞといつもよりゆっくり時間をかけて体温計を脇に挟む。やがて機械的なアラームが鳴り名前から体温計を受け取ると、そこに出された数字を見て驚きのあまり声を上げた。

「38.0度もあるじゃないか!他に身体に違和感は無いか?頭が痛いとか気持ち悪いとか」

「すごく……寒い」

今の所、悪寒だけらしく引っ付いていた理由は解明された。そういえばあの男の家に行くまでずっと外にいたと言っていた。昨日は雪が降っていたし、そのせいで風邪をひいたのか。

とりあえず今は水分をたくさん摂らせよう。俺はキッチンに戻り電子レンジで温めておいたコップを取る。それに水を少し入れてスプーンで少量掬って自分の腕にかけて温度をみる。丁度いい温度になったのでコップを取り寝室に持って行った。

「名前起きられるか?」

「ん…」

名前はもぞもぞと身体を動かすが、どうやら起きるのもしんどそうだ。そんな彼女の背中を支えて起き上がらせコップを渡した。コップを受け取った名前はまたゆっくりと時間を掛けて白湯を飲む。

「あったかい…」

白湯を飲み終え、名前はまたベッドに横になる。風邪なら病院に行くべきだが名前はハロ以上に病院嫌いだ。だが早く治す為にも病院には行かなけれはならない。嫌われる覚悟で名前を病院に連れて行く事にした。



21.0717

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渡り鳥は救われたい



   
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