■ 04-01

零との生活のお陰で最近は1人で色々な所に行けるようになった。零が休みの時は2人で買い物をしたり色々な事を教えてくれるけど1人で学ぶ事も大事だと思って勇気を出して今まで行った事のない所に出掛けられるようになれた。

特に最近では映画館に行ったり、飲食店で食事をする事がたまにできる私の楽しみになりつつある。


今日はある目的の為に出掛けたが、嫌な日になりそうだ。家を出てすぐ誰かの視線を感じた。そしてそれはいつまでも付いて来る。

組織にいたせいか、元々持っていたものなのか人に見られていたり、後を付けられていたらすぐに分かってしまうのだ。今日も誰かに尾行られているとすぐに分かった。


私は立ち止まりスマホのカメラ機能をオンにする。インカメにし前髪を整えるフリをして私の背後を映すと、スーツを着た眼鏡の男がこちらを見ていた。

アイツかな?

私はその男の外見を覚えて何事もない様にまた歩き出した。しばらく適当に移動し、またスマホで同じように背後を見る。先程いた男が少し離れた所にいた。

さて、どうしようか。

尾行されるのも嫌だがそれよりも尾行を指示した奴に腹が立った。私に付いてくる男に見覚えがあったから指示した奴も明白だった。理由は分からないが尾行については大方見当はつく。私を信用してないから尾行しているのだろう。それについては仕方がないと思っている。割り切れてはいるが、私がそう言う事に気づくと知っているのに黙って尾行を指示した事はやっぱり気に食わない。

そっちがその気ならこっちも利用するまでよ。


私は人が多い大通りから急に駆け出し小道に逸れる。入り組んだ道を抜けると荷物を運搬する中型のトラックが停めてあったのでそこに身を潜めた。曲がり角を利用して姿を晦ましたし、今いる場所は分岐が多いから私がどこに行ったか分からなくなった筈だ。

しばらくして私を尾行していた男が息を乱しながらやってくる。トラックの影からこっそり窺うとその男は周りを見渡し私を見失ってしまったのを確認するとどこかへ電話をかけた。

「すみません、降谷さん撒かれてしまいました」

零の名前が出た所で確信する。やっぱり零の部下か。組織を壊滅させる為に降谷零を調べていた時に零の部下としてこの男を見たことがある気がした。記憶を頼りに名前と階級を思い出す。

「はい。………分かりました、すぐに戻ります」

彼が電話を切った所で私は彼の前に飛び出し、手に持っていたスマホを奪って充分に距離を取った。

「なっ!?」

「はじめまして、風見裕也警部補さん」

電話を終えて油断した所を不意打ちで飛び出してきたから簡単にスマホを奪えた。もし彼が身構えていたらいくらなんでも奪えなかったかもしれない。

「………。何のことですか?」

名前を言ったのに零の指示なのか認めてくれない。その間にも彼がスマホを取り返そうとじりじりと近づいて来た。

「動かないで。次動いたら大声出すわよ」

ここは脇道だが大声を出すとすぐに人が来る。騒がれたら困るのは彼だろう。私の脅しがきいたのか彼は立ち止まった。

「とぼけるのはいいけど、貴方も知ってるんでしょう?私のスペック。試しにこのスマホの中身暴いて流出させてもいいのよ?」

私は風見さんのスマホを軽く振りながら彼に笑顔を向ける。やる気はないが、最大の脅しだろう。明らかに彼は動揺した。この人は顔に出やすい。零は隠すのが上手いからこのくらい顔に出てくれると言い合いになっても勝てるかもしれないのに。そんな事を考えていると、彼は諦めたように軽く頭を下げた。

「すみません」

「謝らなくていいわ。尾行は零の指示なんでしょう?謝罪はいいからちょっと付き合ってくれない?」

私の突然のお願いに風見さんは不安そうに眉間に皺を寄せた。



公共交通機関を利用し私たちがやって来たのは以前零と訪れたショッピングモールだった。今日私は初めて真っ当な仕事でお金を貰えたので日頃の感謝を込めて零にプレゼントを買うつもりで外出していたのだ。だが人に何かを渡すなんて初めてでどうすればいいか分からない。丁度いい時に風見さんがいたから、零への腹いせに彼を連れ回す事にした。

「降谷さんへのプレゼントですか…」

「えぇ。零に欲しい物ある?って聞くとあからさま過ぎてバレちゃうでしょう?鋭い人だから聞けないし何がいいか分からなくて…」

アクセサリーは付けられないし邪魔にならないものがいい。ふと風見さんを見るとスーツを着ている零と同じ物を胸にしているのに気づいた。

「ねぇ、その胸に付けてるの何て名前なの?」

「これですか?これはネクタイです」

「それにしようかな。ネクタイってどんな色でもいいの?」

「赤は絶対駄目です、黒や白もあまりよろしくないかと。あと柄は目立ちにくい方がいいですよ」

風見さんのアドバイスを聞きながら私達は紳士服売り場へと向かった。

お店にはたくさんのネクタイがあり、零に似合う色を探していく。数ある中で私が選んだのは薄い水色のネクタイだった。零の瞳のようなその色は私も好きな色だ。それを取りレジへと向かった。


「ありがとうございます。ご自宅用ですか?」

支払いをしようと財布を出すと店員から聞き慣れない言葉が出て来た。急いで頭の中で言葉を変換させる。

ごじたくよう?……あぁ、自宅用って事か。何でそんな事聞くんだろう?よく分からないけど、まあいいか。

「はい、自宅用です」

「横から失礼します。プレゼントならラッピングされては?」

今度は隣にいた風見さんから聞いた事無い言葉が出で来た。今度は頭の中で変換しても意味が分からない。

らっぴんぐってなんだろう?聞いた事無い言葉に私は首を傾げる。何か分からないが皆が知っている言葉だと思う。けれども店員の前ではそれを聞きたくなかった。

「プレゼントにされるならした方がいいです」

私の気持ちを察したのか再度小声で念を押される。零の部下だからか風見さんは信用できる。彼がそう言うなら、らっぴんぐをした方がいいのだろう。

「すみません、らっぴんぐをお願いします」

「かしこまりました」

店員にそう伝えるとカウンターの下から少し幅のある青色の紐と紙を取り出した。箱にネクタイを入れ、そしてそれを器用に紙で包み紐で縛って装飾をしていく。

「こちらでよろしいでしょうか?」

完成された物を見て私は目を見張った。

紙と紐で作られたそれはまるで芸術作品のようだ。見るだけでワクワクしてくる。箱に入っているだけの物を渡すより数倍こっちの方を渡した方がいい。らっぴんぐってこの事だったのか。中身は同じなのに外見が違うだけで特別感が増した様な気がする。


初めて見るらっぴんぐに感動し、私はお会計を済ませて商品を受け取った後、お礼と連れ回したお詫びに風見さんを昼食へと誘った。



20.1108

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