■ 01
『降谷名前』
降谷零が付けてくれた私の新しい名前。
なんで名前なの?
君の名前を考えている時に思いついた。違う名前が良かったか?
別に、いいんじゃない
気に入っているとは言えなかった。
だって恥ずかしかったから。
シギが名前になった1ヶ月後、俺は名前と一緒に住む為に彼女を迎えに車を走らせていた。一応は夫婦になったのだから同じ家に住むべきだと言ったら彼女も同意してくれた。本当はもう少し早く一緒に住む予定だったが2人で住む為に俺も引っ越しをしたから遅くなってしまった。前の家より広くよりセキュリティが厳重なマンションは家具も揃えて後は名前が来るだけだった。
名前の家に着くと彼女は玄関の外で待っていた。引っ越しの頻度も多かったせいか彼女の荷物はキャリーケース一つだけだった。家具はノートパソコン以外全部処分したらしい。
「お待たせ、名前」
車を降りて彼女を迎えに行くと緊張しているのかいつもより顔が強張っている気がする。
「もしかして緊張してる?」
「…別に。ただ名前がまだ慣れなくて」
名前の名前をあげてから何回か会って呼んではいたがまだ慣れないらしい。おそらくだが嫌では無いと思う。名前は嫌な事は言う性格だし呼んだら反応はするから時間の問題だろう。これからたくさん呼んであげなくては。
「そのうち慣れるさ」
彼女の荷物を取り、助手席に案内した。名前は車に乗るのも初めてだったらしく車の中や街中を珍しそうに見る彼女は子供に戻ったみたいだった。
自宅に着くとハロが走って俺たちを出迎えてくれた。驚いた名前はビクリと肩を揺らし少しだけ後ずさる。ハロも初めて見る名前を見上げながら様子を伺っている。
「……零、これ何?」
一応は夫婦になったし一緒に生活する事になったからフルネームで呼ぶのは可笑しいので下の名前で呼んでもらう事にした。勿論2人きりの時限定で。外では安室透の名前で呼ぶようにも伝えた。
ハロがいる事を伝えていたが名前は犬という存在が分からなかったらしい。写真でも撮って先に見せておけばよかった。
「犬のハロ、前に教えた俺の家族さ。おいでハロ、新しい家族の名前だよ」
名前はじっとハロを見つめている。もしかして犬が苦手だったのだろうか?微動だにしない名前を余所にハロは名前の周りをうろうろしながら匂いを嗅いでいる。
「怖いか?」
「怖くない…」
「下から触ってごらん」
一緒にしゃがみ恐る恐るといった形でハロに触ろうとする。怖くないと言っていたが触れる寸前で名前は手をハロから遠ざけてしまった。撫でられると期待していたハロは寂しそうに尻尾を下げる。
「怖がらなくていい」
そんな彼女の手を取り一緒にハロの顎辺りを触る。やっと撫でられたハロは嬉しそうに尻尾を振った。
「ふさふさであったかい。よろしくね、ハロ」
ハロも名前が気に入ったようだ。返事をする様に吠えると尻尾を千切れんばかりに振っている。
「部屋を案内しようか」
靴を脱ぎ軽く部屋の案内をする。引っ越すにあたり彼女の為に畳のある部屋を選んだ。そこは寝室で新しく買ったダブルベッドが置いてある。畳のある部屋を見て彼女も嬉しそうだ。この部屋を選んで良かった。
「ベッド1つしか無いけど一緒に寝るの?」
「もちろん夫婦だからね。嫌か?」
「嫌じゃないけど、でも少し恥ずかしいわ」
目線を逸らし少し赤く染まった頬が初々しい。まだ名前の気持ちは定まっていないが彼女の反応が可愛くて抑えていた欲望が溢れ出す。それと同時に思い出す、夫婦とは名ばかりで俺の片思いなのだと。今は一緒にいられるが、この表情もいつか他の男に取られる可能性だってある。そう思うとドス黒い感情が俺の中を支配する。名前が他の男を好きになったら諦めるつもりだ。だが永遠に俺だけの名前でいて欲しい。
駄目だ、そう思っていても耐えられなかった。彼女を手放したくない欲求が勝り、そのまま名前の背中に手を回し腕の中に閉じ込めるように抱き締めた。
「れ、零?」
「……名前」
抵抗されるかと思っていたが急に抱き締められて驚いたのか名前は固まっている。華奢な身体だ。力を加えたら簡単に折ってしまいそうだ。
名前は今だに微動だにしない。抵抗しないのは嫌ではないからと勝手に思ってしまう。俺がそんな性犯罪者みたいな事を思うとは思わなかった。
戸籍上は夫婦だが強制わいせつ罪にあたるだろうか。名前の年齢も定かではない。以前聞いた時に分からない、多分19か20くらいと言っていたので戸籍上は二十歳にした。本来なら未成年の可能性もある。公安が未成年者に強制わいせつを行ったのならマスコミのいい餌食だ。
しばらく抱き締めた後、様子を見る為に名前の身体を放した。
「俺にこうされるのは嫌か?」
そう聞くと名前は何やら考え込んでしまった。もしかしたらそれすらも分からないのかもしれない。考え込む名前を見て少し不安になった。名前が俺の事を好きになってくれたら、いずれは彼女と身体を重ねたいと思っている。俺も男だ、好きな女性を抱きたい欲は当たり前にある。勿論名前が拒んだら当然手は出さないし、時間が来るまで待つつもりだ。
だが彼女はそれを本当に望んでいるのだろうか。知識が乏しい彼女は俺が我慢できず求めたら流されて、もしくは夫婦だからしなければいけないと思ってしまう可能性もある。もしできるのであれば名前と合意の上でそういう事はしたい。
「ねぇ…」
「ん?どうした?」
思考を止めて名前を見ると顔を赤らめて、恥ずかしそうに口を開いた。
「好きとかまだよく分からないけど…こういう事をされてもいいって思うのは世界中で貴方だけよ、降谷零」
「………」
時間が来るまで待てないかもしれない。今すぐ名前を押し倒して一つになりたい。彼女に惚れてる俺にとっては最強の殺し文句だ。欲望のままに抱き上げてベッドに運んで押し倒しそうになったが我慢して手をきつく握り締める。
抱擁が許されるのなら、それは名前も俺の事を好きと言う事ではないだろうか。だが彼女なりにまだ折り合いがつかないのだろう。少しだけ希望が芽生えた。
本来ならハグだけではなくキスもそれ以上の事もしたい。だが今はまだこのままでいよう。名前が本当に俺を好きだと自覚してくれるまで。そう長くは待てないが、名前の為に少しの間なら我慢できるような気がした。
20.1012
今後も甘々続きます
降谷零は口より手が出るタイプだと思う
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渡り鳥は救われたい