002話 金髪と弁当



結局手ぶらで登校することになった私を校門前で出迎えてくれたのは、超目立つ迷惑な兄の友人だった。人だかりの中から、こちらに手を振る姿に軽く眩暈を覚える。


「おーい、まつりっちー」


両隣から聞こえた溜息に、私も盛大なのをついた。朝から何とも迷惑な人である。手に持っているのが、恐らく私の通学カバンであろうことは、なんとなく察しがついて、忙しい兄が頼ってしまったのが、この男だったことにひどく落胆した。

今日、締切前で忙しいって言ってたもんな……。


「ちょっと!何で無視するんスか!」
「無視はしてない……。鞄ありがとう」
「黒子っちが行くっていうの押し切ってきてよかったッス」


押し切ってきたのか、このやろ。
大体天下のアイドル様が何でこんな田舎にいる。目立つから、非常に迷惑なんだが。と口には出さずに目で訴えていれば、それはもうキラキラスマイルで、撮影っすよーともっともな答えが返された。

ん、でもこれはまさか…。


「それから、暫くお世話になるんで、挨拶に――」
「ハル、今日から暫く泊めてください」
「わかった」
「ちょっと!?」


優しい優しい兄の事だ。嫌とは言えずに押し切られてしまったに違いない。金には困らないのだから、どこか他に宿泊すればいいものを、何で家。周りにひしめき合っていた女子からは非難の声が飛んでいるが、それすらも無視して、隣にいたハルに懇願すれば、あっさりと許可が下りた。


「てことだから、涼太兄は、くれぐれも兄さんの邪魔しないでね」
「駄目っすよ!年頃の女の子が、男と一つ屋根の下なんて!」


両肩をがっしりと掴まれて揺さぶられる。頭がぐらぐらして気持ちが悪い。言っている意味が分からずに身を任せていれば、ぐいっと腕を引かれて、安心する温もりに包まれた。顔を上げれば、幼馴染の仏頂面が見えた。


「遅刻する」
「あ、そうだね」
「な!」
「じゃあ、お仕事がんばってね、涼太兄!」


そのままハルに手を引かれるまま校舎へと向かう。後ろでまこが頭を下げて謝ってくれたようだけど、ハルは変わらず仏頂面で、少し機嫌を損ねたようだった。






・・・・・

お昼休み、お兄ちゃんが作ってくれたらしいお弁当を二つ(ハルの分用意してくれたみたいだ)持って、ハルとまこと三人で屋上へと向かった。その道中、大声で呼び止める声に三人して足を止めると、声のしたほうを振り返った。


「はるちゃーん!まこちゃーん!まつりちゃーん!」


久しぶり!と言って手を上げる金髪の可愛らしい男の子には、どこか見覚えがあった。こてり、と首を傾げる私にハルとまこは顔を見合わせて「渚!」と揃って声を上げた。その名前を聞いて漸く、ああ、と思い出す私は何と薄情な人間だ、と軽い自己嫌悪に陥るが、当の本人は気にした様子もなかった。


「久しぶりだね!髪、伸ばしたんだね!三つ編み可愛い!」
「うわっぷ」


朝、寝癖の直らない私の髪をまこが三つ編みにアレンジしてくくってくれた。そういえば、小学生のころは髪が短かったな、とか物思いに耽りながら、急な渚の抱擁に身体を委縮させた。

く、苦しいのだけれども。


「おい、渚。まつりが窒息するって」
「離れろ」
「いったあ!!はるちゃん!暴力反対〜!」


漸く解放された私は、ハルの背中に庇われてしまった。渚がぶつくさ言っているようだが、とりあえずスルーして屋上へと向かえば、青空が私たちを迎えた。フェンスに寄りかかって座った私の横に腰を下ろしたハルの膝に弁当を乗っける。


「えー!ずっるーい!ハルちゃんだけ手作り弁当!」
「兄さんのだよ。私作ってない」


もくもくと食べだしたハルの横で私も手を合わせていただきますをした。私の反隣に腰を下ろしたまこが、どこから取り出したのか、ハンドタオルさいずのハンカチを私の膝にかけてくれる。


「冷えるからさ」
「あ、ありがとう」


きょとん、とする私ににっこりとほほ笑むまこがとても男前に見えました。ぽわーんとしている私を見て、何が気に入らなかったのか、弁当から大好きなおかずを盗んでいくハルに、あー!と思わず大声を上げる。

何、さくっと盗んでくれちゃってんだ!


「ハ、ハル返して!」
「もう、食べた」
「ひどいひどいっ!!」


横から腕を掴んで返せとねだろうが、ハルの口の中に消えたおかずは戻らない。




(金髪と弁当)
ハルなんか嫌い
……まつり
しらない
……ほら
…(ぱく
…うまいか?
……(こく
……((相変わらずだな…このふたり


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