031話 青と赤のコントラスト



前半終了時点で点差をかなり開いた休憩時間、電話片手に苛立ったように舌打ちをする男は、繋がらない電話の先を酷く心配していた。

自分の幼馴染は、既に会場から離れ捜しに出ているはずだが、それでも見つかったとの連絡がないところをみると、まだ捜しているのだろう。


「出ねーのか?」
「……ああ」
「黒子からの連絡もねーし、まだ見つかってねーんだな」


自分とは違って酷く落ち着いた様子でベンチに座っている男を鋭く睨みつける。


「オイオイ、随分と冷静じゃねーかよ」
「……んなわけねーだろ」


手にしていたスポーツドリンクのペットボトルを握りつぶすさまを見て、スッと視線をそむける。どうやら自分もその男も心中穏やかじゃないのは変わらないらしい。

そして、それはゲーム内でも色濃く表れていたではないか、と。


「ばっくれっか」
「それはできねーだろ」


そう言った男の呟きを受けて頭を過ったのは、プロ入りが決まったその日にお祝い≠してくれたまつりとしたたった一つの約束の為だった。


『大ちゃん、大我さん。もう、私が熱出したとかで試合飛び出してきちゃだめだからね!』
『んなことあったか?』
『あったよ!駄目だよ!もう、プロなんだからね!そんなことで大事な試合ほったらかしちゃダメ!』

――そんなことなんかじゃねーんだけど。

『おー……』
『大ちゃん!』
『俺はちゃんと約束するから。青峰は任せとけ』
『ああ!?』
『うんっ!お願いします!大我さん!』

――あの時、お前はそう言った。

熱出しても、テツが傍にいんなら、まあ、なんとかなるし。実際、俺が傍にいたところで何か変わることはねーけど、それでも、お前が苦しんでるのとか想像したら、やっぱ勝手に身体動いちまうわけで。

それをまつりは、困った風に笑っていやがったけど、俺が駆けつける度にくすぐったい笑顔を浮かべて嬉しそうにするお前を見たら、駆けつけずにはいられなかった。

たぶん、火神も同じだろーけど、な。


だけど、今回は状況が全く違ーだろ。
お前は行方不明。傍には誰もいない。

こんな怖ーことねーぞ、オイ。

分かってんのか、まつり。


握りしめた携帯が鳴ることはいまだない。ただ、見つかったと、その一言がこの媒体を通して聞けたなら、今すぐここから飛び出していける。ぎり、となる奥歯をかみしめて、ただまたあの笑顔が見られるのを切に願った。






・・・・・

『まつりみっけ!』
『もうっ……。凛ってば、どうしていっつも私の事一番先に見つけちゃうの?』
『お前、分かりやすいんだよ』
『じゃあ、私がいなくなったら、凛がいっつも見つけてくれるんだね』
『あったりまえじゃん!』


かくれんぼしたって、まつりが迷子になったって、いつだって俺が一番先に見つける自信があった。これだけは、ハルに負けなかったんだ。

まつりがどこにいたって、俺には見つけられた。

それは、今だって変っちゃいねーはずだ。


まつりが行きそうなところを捜して回っても、そこにお前はいなかった。一つ一つの可能性を潰してく度に、不安は大きさを増すばかりで、身体は疲労の一途を辿る。

適当に束ねた髪からたれてくるのは、汗、汗、汗。

頬やら首やらを伝うそれを鬱陶しく拭うが、それは溢れてくるばかりでとどまりを知らない。


「はあっ、は、……っ」


どこにいる?
まつり、お前、こんな時間に何やってんだ。


おそらくハルたちも捜しに出ているだろうし、まつりの兄貴の馴染も捜し回っているだろう。それでも見つからないアイツは、いったいどこで何をしている。

一応、何度か携帯にかけてみたが、それが繋がることはなく、無機質な電子音の先を想像して、心臓が押し潰れそうだ。


小さい頃よくアイツが隠れていた場所は、もう全部捜した。あのスイミングスクールにも行ったが、そこにもいなかった。

だったら、あとはどこだ。

俺なら、どこに行く?


『ねえ、凛。この花壇になんて言葉残すの?』
『俺?俺は、やっぱこれかな』
『どういう意味?』
『仲間のために!』
『ふふっ、凛っぽいね』


花壇――。
あの花壇に、お前は何て言葉を残したんだった?
小学校は誰か捜しに行ったのか?


ふと頭を過った過去の会話から弾きだされた答えを求めて止まっていた足が再び動き出す。何故だか確証をもって、まつりのいる場所が小学校だと思えた。

ここからそう遠くないそこに小学校はあった。ここの角を曲がれば、校舎が見えてくる。そこにいるはずのたった一人の大切な奴の姿を求めてひた走る。

身体は疲れているのに、足は止まらずに動いて、呼吸は苦しいが、それも気にならなかった。


「まつり――っ!!」


小学校前、叫んだ俺の声を受けて何かが揺れ動く。それを敏感に察知してそちらへ視線を飛ばせば、目に飛び込んできたのは、驚いたようにこちらを見つめる真ん丸の二つの瞳だった。




(青と赤のコントラスト)
さあ、君を見つけた出したのは
君が求めた王子様だったかな?


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