022話 水着談義



渚と二人勧誘に駆けまわっている私は、目の前に一年生の男の子二人組を見つけるとすかさず走り寄った。


「あ、あのっ!」
「は、はい」


勇気を出して声をかければ、二人は驚いたように反応して、私を見て固まってしまった。


「部活って、もう決めたかな?」
「いえ、まだ……」
「決めてないっすけど」


出来るだけ優しく聞いてみれば、なんと部活をまだ決めていないとのこと!心の中でガッツポーズして、二人の男の子に満面の笑みを向ける。


「水泳部どうかな?」
「え?」
「私マネージャーの黒子まつりって言います。よかったら入部しない?」
「おい、どーする?」
「いや、何か迷うよな」


お、これは好反応?
彼らの視線が私の身体にいっていたとは露知らず、あと一押しで、と思い開きかけた口は、後ろから私の名前を呼ぶ三人の声に遮られた。


「言っとくが、コイツは脱がない」
「え?ハル?」
「泳ぎに興味あるなら大歓迎だけど、それ以外はお断りだよ」
「まこー、何を…」
「そうそう。まつりちゃん目当てで入っても、ライバル多くて無理っ!」
「な、渚くーん?」


二人の男の子はすっかり青ざめてその場から退散してしまった。
皆をふり仰げば、どこか勝ち誇ったような笑顔で私を見下ろしている。何をそんな悠長に、と思った私は間違っているだろうか。


「ちょっと!あともう少しだったのに!」
「ダメダメ!あんなのまつりちゃんの身体目当てに決まってるじゃん!」
「私、そんな体系よくな――っひゃ!」
「抱き心地はいい」
「ハル―っ!」


幼馴染だからと言っても許されない領域というものがあるんだぞっ。暴れる私を見てもハルの力は緩まず、まこと渚が助けてくれることもなかった。

微笑ましそうに見てないで助けろー!!


――とまあ、こんな感じで勧誘がうまくいくことはなく、放課後となりまして。
部室では、皆が途方に暮れていた。ハルだけは、勧誘のための岩鳶ちゃんマスコット木彫りを懸命に彫り進めている。

私はハルの横で、のんびりそれを眺めていた。


そんな私たちの後ろで渚が提案しているのは、あまちゃん先生の水着姿見放題というものだった。それ、さっき私の事では猛反対していなかったか、と思いつつ耳だけ傾けていれば、入口から物凄いオーラを感じた。

くるりと振り返れば、恐ろしい笑顔をたたえたあまちゃん先生がいらっしゃる。

ずかずかと入ってきたかと思えば、圧倒的な力でまこと渚の話を折り、やったら顧問下りるから、とまで口にして退出していかれた。

後に残された二人は、まだぶるっと震えている。


「私なんかでいいなら、脱ぐけ――」
「「それはダメ(だ)!」」


三人して声を張るものだから、吃驚して身を引いてしまった。
よくわからないけど、三人とも私の水着姿にはかなり、期待していないということなんだろうか。

何か女の子として、それは結構傷つくのだけれど。



「――て感じでね。私ってそんな、魅力ないかな……?」
「あ、いや……たぶん、逆だと思いますけど」


プールの補修に入った私たちの元に差し入れがてら顔を出してくれた江ちゃんにそう、相談を持ち掛けてみれば、彼女からは苦笑が漏れた。

バカにしているとか、そんなんじゃない、何もかも分かったいるような感じの。


「逆って?」
「嫌なんだと思います。見せるのが」
「え?」
「何なら、今お兄ちゃんに確認してみましょうか?」


きっと、同じこと言いますよ。
そう言って得意げに笑う江ちゃんが、手早く携帯を操作して凛に電話をかけているようだ。私にも聞こえるように手招きしてくれた。

江ちゃんにくっついて携帯の向こう側の音に気を配っていれば、直ぐに凛の声が聞こえてくる。


「お兄ちゃん、まつり先輩が部活動勧誘の為に水着になるんだって!」
(は、はぁあ!?やめろ!今すぐやめさせろ!)


ほらね、とでも言うように笑っている江ちゃんとは逆に電話の向こうの凛はかなり焦っているようだった。その反応に、私のほうが笑いをこらえられなくなる。


(おいっ江!絶対アイツに水着なんか着せんなよ!)
「でも、遙先輩とかも乗り気で――」
(はぁ?んなわけあるか。ハルの奴何考えてやがる)
「じゃあ、お兄ちゃんから止めて。今代わるから」


え、え、何でそこで私!?
適当なことを言って、私に携帯をよこした江ちゃんに慌てて首を横に振るが、江ちゃんはさあっっとまこのところへジュースを持って逃げて行った。

手に残る携帯からは、同じように慌てた凛の声がする。


通話を切ってしまうのも申し訳ないので、結局は電話に出る選択をした私は、「もしもし」と控えめな声で電話に出た。


「凛?」
(お、おう…)
「あの……」


さっきの全部嘘だから。
そう口にしようとした私より先に凛が口走ったことに、私が赤面することになったのは、この後すぐの話だった。






・・・・・

「そういえば、さっき誰と電話してたのー?」
「え!?」
「江ちゃんの携帯で電話してたでしょ?赤面してたし」
「あーあれは…」


――『いいか。俺以外の男の前で肌晒すとか、絶対許さねーからな!』


ぼんっ!
効果音すら聞こえてきそうなほど、急激に高まった熱が再び頬を赤く染めあげる。凛の強烈な俺様発言が頭の中で反響しているので、耳を塞ごうが、それは聞こえてきた。

な、何で私こんなに動揺してんのよー…っ。


「まつりちゃん?真っ赤だよ?」
「ほっといて!」


見られたのが渚だけならよかった。
ハルとまこはまだあっちで片づけしてるし。その間に早く熱を冷まさないと。

――と、思っていたのに。


「まつり、何かすっごい誤解してるみたいだから、訂正にきたんだけど!」
「え?」
「俺はお前の身体に興味ないわけじゃないぞ」
「っ!?」
「ハ、ハル、それは直球過ぎ……」
「ハルちゃんだいたーん!」


江ちゃんから事情を聞いたらしい二人は、慌てて私の誤解を解こうとやってきてくれたようなのだが、またしても爆弾を投下して下さった遙様に、私は顔を覆ってその場にしゃがみこんでしまった。

それをまた誤解したのか、ハルの手が私の頭に触れる。


「俺以外の男の前で、まつりが裸になるのは嫌だ」
「裸じゃなくて水着だから!」
「ハルちゃん、一歩間違えたらセクハラで訴えられちゃうよ?」


あーやめてーっ!
皆の会話が耳に飛び込んでくるたび、身体が蒸発してしまいそうになる。凛の発言よりも羞恥にかられるのは、たぶん目の前で言われているからだ。


「とにかくさ、まつりに魅力がないとかそんなんじゃないよ」
「そうそう。寧ろ逆だから、僕らの前では全然水着になってくれて構わないよー?てゆーか、なって応援してくれたら嬉しいなー」
「ああ。だから、そんな落ち込むな」


落ち込んでないっ!
恥ずかしくて顔あげられないの!
言いたいことはあるけれど声にならない私の心は、彼らにはきっと届くことはない。だけど、やっぱり、興味ないって言われるよりもそう言ってもらえるほうが、女の子としては幸せなんだと思う。


思うけど!今はいい!!

そんでもって、絶対水着になんかなるもんかっ!!




(水着談義)
みんな嫌いっ!
えー?!何で怒ってるのー!
まつり……
だから誤解だって!
私、絶対誰の前でも水着になんてならないから!
・・・(あ、地雷踏んだ


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