009話 いざ、鮫柄へ



ハルの家に帰ってきて、早速台所で夕飯づくりに取り掛かる私に対して、ハルはお決まりの水風呂に向かった。せっせと動き回っていれば、玄関のチャイムが鳴る。


「はーい!」


エプロンしたまま玄関へと向かい、そのまま扉を開ければ、ポニーテールの可愛らしい女の子がきょとんとした顔で出迎えてくれた。

あれ、この顔どこかで――。


「まつりおねえちゃ――!えっと、まつりさんですよね?」
「!――江ちゃん!」


わあ、懐かしい、と江ちゃんの手を取ってはしゃぐ。凛の妹の松岡江ちゃん。私の妹の様なもので、幼いころはまつりお姉ちゃんと人懐っこく後ろをついて回ってきていた。

久しぶりの再会にはしゃぐ私と江ちゃんだったが、江ちゃんの後ろに見つけたまこと渚の姿にぴたりと動きを止める。


「ちょっと話があるんだ」
「はい」


まこの言葉に頷いた江ちゃんは、私に小さく会釈すると、二人のもとに向かう。これは、私が聞かない方がいい話なのかな?その場を動かない私を見て、まこが「夕飯の用意あるだろ」というものだから、気を使ってくれたのかな、と思って素直に引っ込んだ。

ハル一人残してくのもなんか、アレだし。江ちゃんとはまた今度ゆっくり話せるかな。制服見る限り岩鳶高校みたいだし。






・・・・・

夕飯作りを再開してそう時間も経たない内に、まこと渚は戻ってきた。何やらバタバタと風呂場に向かったようなので、ハルに用でもできたか。


「だから、行かない」
「凛ちゃんに会いたくないの!?」
「昨日会ったろ」
「でも確か、鮫柄学園て、屋内プールあったと思うけど?」
「……」


三人の会話に耳を傾けていれば、会話はハルが折れることで終着したようだった。タオルを頭にかぶってこちらまで戻ってきたハルは、味見をする私の横まできてとまった。手にしていた小皿を渡せば、こくり、と飲み干す。

味は濃すぎず薄すぎずだよね、と思いながら様子を伺っていれば、ハルは一言「うまい」と残してリビングに向かった。


「新婚夫婦みたいだね、ハルちゃんと、まつりちゃんって」
「……別に」
「ハルちゃん、顔赤いよ?」
「うるさい」


リビングで渚にからかわれているらしいハルを残して台所に顔を出したまこは、手伝うよ、と食器を出してくれる。相変わらずこういうところに機転が回るのは、とても頼もしい。


「ありがとう」
「どういたしまして」


まこに手伝ってもらって、夕飯をちゃぶ台に並べれば、渚が真っ先に手を伸ばす。皆でいただきますをして、少し早めの夕飯を食べているとき、私の携帯が振動を始めた。長い間止まらなので、着信だと思い、手を伸ばす。

ディスプレイに映し出された名前を見て、目を瞠った。


「もしもし?」
(今どこだ)
「え、ハルん家」
(ああ?)


一瞬にして低くなった声の持ち主は、言わずもがな凛である。先程三人の会話の中心にいたこともあり、三人の様子を伺えば、三人の視線もこちらに向けられていた。電話の相手が兄でないことは、おそらく気が付いているのだろう。


ちなみに兄には今日、ハルの家で夕飯を終えてから帰ることは伝えてある。涼太兄のこともあるし、早めに帰ると連絡したのだが、どうやら涼太兄は今夜遅くまで仕事だそうだ。こっちに来た理由は、本当に仕事だったようなのだ。


「何かあった?」
(……今日、時間あったらどっか行くかと思って)
「!あ、じゃあさ、今からそっち行ってもいい?」


少し拗ねたような口調の凛に笑いそうになるのをこらえて、そう提案すれば「は?」と訝しげな返答があった。周りが静かなので、おそらくまだ寮の中だろうと踏んで提案したのだが。


「迷惑ならいいけど…」
(危ねーだろ、こんな時間に)
「大丈夫だよ!(こんな時間て、まだ夕方だし!」
(……どっかまで迎えに行く。電車?)
「あ、うん!」
(じゃあ、駅で待っとけ)
「え、あ、」
(何だよ)
「や、鮫柄まで行くよ?」


そこで三人がぎょっとして再度こちらを伺ったことに私は視線を落とした。電話の向こうでは、凛が待ってろ、と残して強制的に通話を切ってしまった。これは、困った。三人について一緒に鮫柄行って、ばれないように服返してくるはずだったのに!


「まつり、凛と電話してたのか」
「は、はい……」
「凛なんて?」
「駅まで迎えに行くから、待ってろと」
「凛ちゃんに僕らのこと言わなかったね」
「言おうとしたら、切れちゃった」


てへ、と笑えば重たい沈黙が降りる。


「えっと、皆もこれから鮫柄行くんだよね?」
「そのつもりだけど、たぶん俺たち一緒だとまずいんじゃないかな」
「凛ちゃん、まつりちゃんと会いたいんでしょ?」


二人で、と付け加えた渚の一言にハルの機嫌が急降下したことには、その場にいた全員が気が付いた。渚もああ、と困ったように笑っている。


「凛に返すものあるの。だから、私後で凛連れて鮫柄戻るよ」


それまで泳いでれば、ね?とハルを伺い見れば、泳ぎたいのと気になるとの二つで葛藤している様子だ。私を心配してくれている(←意味が違う)のだろうけど、大丈夫だけどな。


「じゃあ、俺たちは先に鮫柄行ってようか、ハル」
「……何かあったら、すぐ電話しろ」
「うん、ありがとう」


とりあえずは、夕飯食べたら鮫柄学園へレッツゴーです。




(いざ、鮫柄へ)
※電車の中
皆、寝ちゃったね
……重い
ハル、寄りかかっていいよ
こいつらの体重もかかるだろ
!……ふふ
何笑ってる
ハルは優しいなって
……うるさい


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