デイドリーム



11 絆される


<Side沙羅>

気が付けば春も終わり、梅雨になっていた。
いつもどんよりした天気は、私の気持ちを表しているようだった。

自転車部は雨でもレースが行われることがほとんどなので、いつも通り練習はある。
今日は午後から雨の予報だったが、思ったよりも激しい雨の中の練習だった。

他の部員は帰ってしまって、部室にはわたしと荒北の二人だけになる。
わたしが片づけをしようとしたとき、
ガタッ!

荒北がよろけた。
私は慌てて駆け寄り、荒北を支える。

「ワリィ、ちょっとよろけちまった。」
「そんなことより、あんた、体すごい熱いんだけど…。熱あるんじゃない!?」

荒北のおでこに手を当てると、ものすごい熱い。呼吸もさっきよりも荒い気がする。

これ、やばいやつじゃない?
「荒北、早く帰ろう。」

荒北の荷物を持って、部室を閉めて急いで家に帰る。
なんとか家まで戻ってきて、荒北の部屋の鍵を開けた。

「何とか着いたね。とりあえず着替えよう」
わたしは荒北を励ましながら部屋の中まで連れていく。
「ワリィ、寝てりゃ治るから…。帰ってイーヨ。ありがとネ。」
荒北はそう言ったけど、このまま放っておけない。

「台所ちょっと見るね。その間に着替えときなよ」
キッチンに向かって冷蔵庫の中を確認したが、あまり大したものは入っていない。

「わたし、食材とか薬とか買って来るから、鍵借りていくね。」
荒北は着替えてベッドに入っていた。

「もう大丈夫だからァ、帰れよ…」
「大事な選手をそんな状態で放っておけないよ。食べ物とか買ってくるから」
わたしがそう言うと、断る元気もないのか、荒北はコクリと頷いただけで、目を閉じた。

近くのスーパーで必要なものを買い、自宅から体温計や薬など使えそうなものを持って荒北の家に戻る。
ベッドに近寄ると、赤い顔をした荒北が見えた。

「荒北、熱はかろっか。」
自宅から持ってきた体温計を渡しすと、荒北はだるそうに脇に体温計を挟む。

その間に、ペットボトルにストローキャップをつけてテーブルの上に置いた。
買ってきたゼリーやドリンクを冷蔵庫に入れる。

ピピピピッ
体温計が鳴った。荒北はのそのそと体温計を私に渡してきた。
「38.5°、結構熱あるね。食欲はある?薬飲むのに胃に物を入れたほうがいいから…」

ぼーっとした顔をしながら、荒北が体を起こそうとしていた。

「寝てていいよ。」
「…喉乾いた。」 

そうか、と思い、両手にスポドリと水をもち、荒北に見せる。
スポドリを指さしたので、キャップを開けて
「寝たまま飲めるから。」
と荒北の口にストローを近づけた。

荒北はごくごくと飲んでから、
「…なんか子供みてぇ」
と不満そうな声を出す。

「寝たまま飲めるから、楽でしょ。ここに置いとくね。」
ベッドのすぐそばに小さいテーブルを寄せてドリンクを置いてやった。

「ゼリー、プリン、スポドリは冷蔵庫いれとく。レトルトのおかゆは流し台においとくね。」
わたしがそう声をかけても、荒北は文句も言う元気もないみたいで、首を振って返事しただけだった。

「なんか食べれる?おかゆでいい?」
薄く目を開けて荒北がコク、と頷いて返事する。
わたしは卵がゆをつくろうとキッチンへ向かった。

なにが「帰ってイーヨ」だ。
冷蔵庫は空っぽだし、体温計も薬もないくせに。
1人暮らしなめんな。心細いくせに。意地っぱりめ。

「よし、できた。」
茶碗におかゆをよそい、荒北のところへ持って行く。
荒北は苦しそうな顔で寝ていた。
少し顔が赤く、汗が出始めているから、熱は上がりきった感じのようだ。

良く寝ているから起こすのは少しかわいそうだが、荒北に声をかける。
「おかゆできたよ。おきれる?」
わたしの声に気付いた荒北は、細い目を開けて、だるそうに起き上がる。

荒北に茶碗とれんげを渡すと、ゆっくりと食べ始めた。
わたしはその様子をなんとなくぼんやり見つめていた。

病気の荒北って、顔が少し赤くて、なんか色気あるな…とか
骨ばった指が、なんかイヤらしい…とか
だるそうな表情がムダにオスっぽい、とか。

でも、おとなしく私の言うなりなのがカワイイな、とか。
荒北の顔を見ながらいろんなことを考えていたら、

「…あんま、見んな。クッソ、カッコワリ…」
荒北はわたしの視線に耐え切れないといった様子で言った。

「うぁっ!ごめん!…片付けしてくる。食べ終わったら声かけて。薬持ってくるし。」

荒北に言われて、自分が荒北のことを穴が開きそうなほど見ていたことに気が付き、慌てて目をそらした。

顔がほてる…
顔から火が出そうって、こういうことだ。
わたしは立ち上がってそそくさとキッチンに向かった。

鍋とか食材とかを片付けて、あと何かしておくことは…と考えていると、
「食い終わった…」
荒北の声がしたので、ベッドのそばに移動した。

「はい、薬。あと、着替えってどこにある?」
荒北に薬を飲ませて、着替えを用意した。

「もう少し寝たら、きっと楽になるよ。」
そう声をかけて、自分の晩御飯にもなるように野菜スープをつくろうか、とたちあがろうとしたら、
荒北に手をつかまれた。

「…もうちょっとだけ、いてくんネ?」
しんどそうな顔で、必死にわたしを見つめてくる。

なにこれ、野獣が弱って、わたしに懐いてる!?
カワいすぎ!!萌える。
にやけそうになるのを必死でこらえ、平静を装った。

「明日休みだし、まだここにいるよ。」
そう声をかけると、安心したのか荒北は目をつぶった。




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