・虎夢の夢主に片思いしている
・夢主発情中
・描いた絵につけたSS



――その日は雨だった。
寮に入るや否や、早足で自室に戻ろうとするナマエの腕を慌てて掴む。
「待てよ」
「……大丈夫だよ、恵くん。だから離して」
「大丈夫なはずないだろ。そんな顔で」
言葉とは裏腹に、赤く火照った顔を上げ、潤んだ瞳で俺を睨みつける姿に心臓が音を立てる。雨に濡れた髪が彼女の額に張り付き、その匂い立つような色めかしさにはっとして、慌てて手を離した。
「硝子さんがいなくても、五条先生とかに見せてなんとか……」
「やだよ。こんなとこ、見られたくない」
声を震わせ、小さくそうつぶやく。
「そう……だよな」
呪術で発情してしまったなんて、知られるのも嫌だろう。俺だって、こんなお前の姿、むやみやたらに見せたくはない。
「じゃあ、せめて俺の――」
そう言いかけたとき、背後から耳慣れた足音が聞こえる。振り返ると、ちょうど虎杖が戻ってきたところだった。
「あれ、二人してそんなとこで何やってんの……って、ナマエ、顔真っ赤じゃん! どったの?」
驚く虎杖に状況を説明する。
「まじか。んまあ、とりあえず俺の部屋で休んでなよ」
赤らんだ頬で、ナマエがこくりと頷く。その背に手を回す虎杖を見て、気づくとそれを引きとめていた。
「待てよ、俺が――」
「でも伏黒、雨でびしょ濡れじゃん。着替えねぇと風邪ひくぞ」
 そう言われ、自分の髪が滴るほどに濡れていたことにようやく気づく。
「ナマエの着替え、俺の部屋にあるしさ。だからこっからは任せてよ」
無邪気にそう笑う虎杖に、目の前の景色がぐらりと揺れる。
「ああ……そう、だな」
先ほど口をついて出た言葉は、あっという間に転げ落ちた。虎杖に悪気がないのは分かっている。……分かっている。
「じゃ行くぞ。歩けるか?」
「……うん」
虎杖がナマエの小さな肩を抱く。少し触れられただけで頬を染め、唇を震わすその姿に、胸がぎゅっと締め付けられて堪らず顔を背けた。
残されたのは、冷え切った惨めな自分と雨の音。いつのまにか、痛いほど握りしめていた手は彼女に届くことはなかった。遠くで、バタンとドアが閉まる音が響く。

――窓に映った俺の顔が歪んで見えたのは、雨のせいだけではないだろう。




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