発情シリーズ

「ダメです。大事なあなたに怪我をさせるわけにはいかないでしょう」
七海さんと二人きりの部屋。真っ赤な顔で熱い息を吐きながらも、私と距離を取ろうとする彼に少しずつ近づく。
「七海さんの力になりたいだけです。その……男の人が我慢するの、つらいって言いますし」
数十分かけて、ようやく彼を壁際に追い詰める。諦める様子のない私を見て、ついに断念したのか七海さんは大きなため息をついた。
「言っても聞きませんね。どうなっても知りませんよ」
彼の手が、するりとネクタイを外す。
「七海さんになら、どうされても大丈夫です」
「……はぁ。まったく、人の気も知らないで」
もう一度大きく息を吐く。そして私の腰をいつもより乱暴に抱き寄せると、ゆっくりと唇を重ねた。
「んっ……」
ぬるり、舌が絡み合う。口の端からつつと唾液が漏れ出たのを感じて、ぞくりと体が震えたのがわかった。いつもより呼吸が荒い七海さんに、全身が火照っていく。
いつのまにか立場は逆転し、壁にぐいと押しつけられた。息をする間もなく、甘い疼きで指先まで痺れる。彼の首に手を回そうとしたとき――ようやく、私は自分の手が固定され、動かせないことに気づいた。
「あの、七海さん、これは……?」
見慣れた彼のネクタイで、いつのまにか手首をドアノブに繋がれている。
「私のことは心配しなくも大丈夫です。大人なので、自分でなんとかします。それに、まやかしの欲に支配されてあなたを抱くのは、私の流儀に反します」
口元を乱暴にぬぐいながら、私に背を向ける。
「……あなたを騙してしまったことは申し訳なく思っています。文句は後ほどいくらでも聞きますので」 
私を残し、隣の部屋のドアを開ける。――まもなく、押し殺した彼の声が聞こえてきた。
「……嘘つき」
ぼそりと呟く。あとで出てきた彼にどんな文句を言ってやろうかと思いながら、私は深い深いため息をついたのだった。




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -