揺れるゆれる 5

 私と知佳ちゃんは随分早い休憩の時間と洒落込み、モールの中に入っているミスドでドーナツとカフェオレを前に大笑いしていた。
「やだー! 知佳ちゃんのお姉さんの行きつけのお店だったなんて!!」
「はい、8(エイト)かなって思ってましたから驚きませんでしたよ。うちのお姉ちゃんも時々そういう服着てるから。でも偶然ってすごいです!」
「っていうかー! 知佳ちゃんなんで見つけちゃうのー!! 神業っ!!」
 私は思わずまた大笑いしてしまった。すると知佳ちゃんも同じように笑う。
「ふふふっ! いえ、なんで今まで気づかなかったのかなーって声かけただけですってばー! あんなに激しい反応する人、初めて見ました! あー、驚きました!」
「だってー! 私の大好きなライダースジャケットがあんなに破格で店の上の方にぶら下がってたなんてぜんっぜん知らなかったんだもの! もう、見つけた時には驚いた驚いた! そんで笑っちゃった!」
「絵里香さんすっごく爆笑してましたよね。スタッフの人と。私も笑っちゃいましたけど」
「そりゃ笑うよー! 笑うさー! 探してたものがずっと目の前にあっただなんて……あっははは。しかしどうして気づかなかったかなー。……おかしい」
 ストロベリーのフレーバのドーナツを頬張り頭を傾げると、目の前の知佳ちゃんはまた笑った。
「おかしいのは絵里香さんですよっ! ちゃんとお店見てあげてください!」
「いやー、見てたんだよ? 見てたんだけど、今日が運命の日だったんだね。今日出会う運命だったんだよ! そういうことにしておかないと惨め過ぎるわー。けど、いい買い物できた! ありがとね、知佳ちゃん。知佳ちゃんのおかげ!」
「あっえっ? いえっ! 私なんて全然なにも……! あ、そうだ。じゃあ、お礼として二階にある雑貨屋さん、寄ってもらってもいいですか? 私雑貨って大好きで!」
「全然いいよ! 私も何気に雑貨って好き。かわいいよねー! 二人暮らしとかさ、した時とか全部雑貨屋さんで買ったもので統一とかしちゃったらどう思う?」
「かっかわいいと思う!!」
「だよねー!! じゃ、カフェオレ飲んだら店出よっか! ゆっくり時間かけて回りたいもんね!」
「っはい!! っていうか絵里香さんはあれですね、なんだか優しい。昨日も思ったけど……うちのお姉ちゃんよりおねえちゃんっぽい。大人だなあって、気がします」
「えー? まあ、もう十八だしねえ。いつまでも子どものままでは、いられないからね。でも知佳ちゃんはまだまだ甘えても許される年齢なんだから。どーんと甘えなさい!」
「はい! ふふ、やっぱり、優しい……!」
 そう言って、知佳ちゃんは頬を赤く染めた。
 このモールは二階建てで、雑貨屋はちょうどモールの真ん中ら辺に位置している。店から出た私たちは雑談に花を咲かせながらお目当てのお店へと向かう。
 しかし、雑貨屋さんって楽しいよね。色とりどりのマグカップ、ランチョンマット、時計になにから何までいろいろなデザインのものが目を引く。
「あ、これかわいい。ね、絵里香さんこのエプロン絵里香さんっぽい」
 そうやって差し出してきたのは北欧風のギャルソンエプロンだった。
「かわいいっ! 私こういう色使いって好きなんだよね。よく分かったね、私の好み」
「あは、なんだか……絵里香さんはロックな人だけど、本当は素朴であったかい人だから。北欧ってそういう感じしません?」
「ああー……私があったかいっていうのは置いておいて、確かに北欧ってそういう雰囲気だよね。ムーミン的なねそういう感じだよね」
 そこで私たちはあるものを見つけてしまった。というか、知佳ちゃんの足が勝手に止まってしまったのだけれど。
「ああ、未だこれあったんだ……」
 知佳ちゃんの独り言に私も一緒に立ち止まるとそこにはピンクゴールドの街のシルエットを模したネックレスがひっそりと置かれていた。
「わあ……! すっごくかわいい!! 知佳ちゃんセンスいいね! えー、こんなものも置いてあったんだ! すてき……!」
 店の照明を受け、きらきらと光り輝くそれは知佳ちゃんにとても似合いそうに見えた。
「ね、ちょっと着けてごらんよ。ほら、後ろ向いて?」
「えっ! いい、いいです。買わないのに……!」
「着けてみるのはタダだから大丈夫。ほらー、年上の言うこと聞きなさい」
「あ、じゃあ……あの、着けるだけ、にしておきますけど、お願いします」
 私は上機嫌でネックレスを取り、細っこくて白い知佳ちゃんの首筋を見ながらチェーンを繋げてあげてみる。
「わ、すっごくかわいい!! 知佳ちゃんによく似合ってる! 知佳ちゃんの肌の白さにピンクゴールドは映えるね。うん! 私の見立てに間違いは無し!」
 知佳ちゃんもどうやら気に入ったようでしきりに鏡で確認しては笑んでいる。
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