その後、私たちは明日の予定を立ててそれぞれの家路に着いた。
自宅に辿り着くなり、私はベッドへダイブした。ぽふんと布団は柔らかく私をキャッチしてくれ、ぎゅっと掛け布団を握る。
なんでかな。なんだか切ない。私が失恋したわけでも、ましてや気持ちが悪いなんて言われた事実はないのに何故か胸が痛む。
彼女の、知佳ちゃんの気持ちに中てられたのかも知れない。あの、真剣な想いに私は胸が痛くなる。彼女の想い人になれば、あの情熱が向けられるのだろう。
羨ましい。
あんな風に想われてみたい。それは逆でもある。彼女のように、誰かを想ってみたい。それは、傷つく量は倍以上だ。振られれば、彼女のようになる。
複雑な思いを胸に、私はそのまま目を瞑り長く息を吐き出した。
翌日。
私は鏡を前に頭を捻っていた。さて、なにを着ていこう。私の服装って……あんまり万人に好まれる服装じゃないんだよね。なんかこう尖がってる、みたいな。冬は皮ジャンとか着ちゃったり、スタッズが好きだったり黒が基調のちょっとV系入っちゃったみたいな、そんな服着て知佳ちゃんと会う。考えちゃうな。引かれちゃったりしないかな。無難な服も持っていなくは無い。けど、なんだかそのままの私で会いたいと考えてしまうのだ。
彼女には、知っておいてもらいたいと思うこの気持ちはなんだろう。
けどこの気持ちには正直でいたい。そう思った私は、そのままのいつもの服装である薄手の黒いジャケットを着てスカル模様が大きなTシャツを選び、皮のパンツを履きこなして鏡を見る。
うん、悪くない。
その後、ずいずいと鏡に近づき薄く化粧を施す。知佳ちゃんは私の唇を血色がいいって言ってくれたけど実は違ったりする。これはリップにちょっと色がつけてあるものなんだよね。学校が厳しいから口紅はつけていけないし、ならばと思ってこれで代用しているだけで。けど知佳ちゃんにああ言われるのはちょっと嬉しいので今日もまたそれにお世話になることにする。
バッグを持ち、くるりと全身鏡の前で回って確認。大丈夫、おかしくない。
部屋から出て、母に「ちょっと出てくるー!」そう言って家から出た。もう、春も終わりかな……。日差しがちょっと強い。季節は移ろう。知佳ちゃんの傷も、徐々に癒えるといいな。
そう思いながら自転車に跨り出発だ。待ち合わせはいつものコンビニ。私は少し店からは遠くなっちゃうけどこの脚力を持ってすれば不可能なんて無い。
待ち合わせは午後一時。コンビにまでは約二十分。店が見えてくると、知佳ちゃんはもう既に着いていて「橋本さーん!」と手を振ってくれる。
「ごめん! ちょっと遅れちゃった?」
交差点を渡り切ってコンビニへと到着し改めて知佳ちゃんの服装を見る。
「知佳ちゃん、かわいい。女の子の一枚ワンピースっていいと思う。ふふ、生足! きれい」
私の言葉に、知佳ちゃんは顔を真っ赤に染めた。
「やっ、いえ! そんな、橋本さんの方がその……すてき、ですよ……?」
「ねえ、なんで橋本さんなんて呼ぶの。昨日は絵里香さんって言ってくれたよね?」
「え。あ、あれはその……い、勢いで……! 橋本さんが知佳ちゃんって呼んでくれたのが嬉しくて、本当につい……。ごめんなさい……!」
ぺこりと頭を下げてくる知佳ちゃんのボブヘアーをぽんっと軽く叩いてみる。
「ごめんって思うなら、名前呼び。全然気にしないし、寧ろ嬉しかったのに。絵里香さんってさ! ねっ?」
「あ、あの、えと……じゃ、絵里香さん! 行きましょうか!!」
「はいよっ! あ、昨日行こうって言ったショッピングモールでいいかな? いつもの行きつけのお店があってね。もしかすると知佳ちゃんの服のタイプではないから面白くないかもだけど……ちょっとセール品見たくてさ」
「はい、構いませんよ! 私のほうこそ楽しみです!」
私たちは互いに微笑み合い、自転車へと跨って地面を蹴って走り出す。
走っている間は話は出来ないので無言でコンビニから約三十分弱のモールへと向かう。途中途中、交差点で止まることはあったけれどあまり話はしなかった。
モールへ到着し、それぞれ自転車から降りて改めて私たちは顔を合わせてにっこりと笑う。
「こうしてしっかり見てみると、絵里香さんカッコいい……。彼女、私の好きだった彼女との服装とは全然違って……なんだか、やっぱり違う人なんだなって、思う」
「そりゃ、服装の趣味まで似てたら同一人物かドッペルゲンガーでしょ!」
歩き出しながら、知佳ちゃんは首を捻った。
「どっぺる、げんがー…? ってなんでしょう?」
「ああ、知らない? えと、私も詳しく知ってるわけじゃないんだけどこう、自分とそっくりの姿をした分身で出会ってしまうと死んじゃう、みたいな?」
「初めて、知りました。そんなことってあるんでしょうか?」
「さあー。けど見たくは無いよね。もう一人の自分なんて。なんだろ、不思議な気分にはなると思うけど」
「ちょっと怖い、ですよね。……自分じゃないもう一人の自分と出会った時の向こうの顔ってどんな表情するんでしょうね。笑うのか、どうなのか」
「ちょ、知佳ちゃんリアルすぎるからちょっと止めてー! こわいー!」
「あはは、話振ったの絵里香さんなのにー!」
笑いながらモールを潜った私たちは私お目当てのお店に早速向かうことへする。
「本当に面白くないかもだけど、いい? 知佳ちゃんにはつまんないお店かも」
「大丈夫ですから! 折角ショッピングに来たんだもの。いろんなお店覗くのも楽しいです」
「そう? んじゃ、行こっか!」
そうしてその約一時間後――