広場のそばには、大きなメリーゴーランドがあった。
 まるで王冠のように豪華な屋根部分、柱などには朝露の粒のように細かな電飾がずらりと並んで美しい。
 しかし肝心の馬が、周囲の造形美を壊すほど異様な姿をしていた。
 馬たちは作り物ではなく、どうやら本物のようだった。支柱がその胴体を貫き、白馬の毛並みは黒い赤に染まっていた。
 馬は悲しげな声を上げてぐるぐる回る。血を流し続ける馬たちに対し、僕の血の気は引いた。
「どうしよう……」
「大丈夫、単純なことだから」
 そう言ってリリイが苦しむ馬の体にそっと触れると、支柱は消え、解放された馬はメリーゴーランドの中を元気に駆け回り始めた。いつの間にか傷も癒えている。
「壮亮もやってみなよ」
 リリイにうながされ、僕も震えて血を垂れ流す馬に触れてみた。馬は同じようにぱっと駆け出し、もはや刺さっていた支柱はどこにも無かった。馬はただ触れてほしかっただけなんだな、と僕は思った。
 なんだか子供の時みたいだな、と思う。子供の頃はこんなふうに、傷付いた馬だって簡単に解き放つことができたように思う。もちろん、夢や空想の中でだけれど。でも昔は、夢や空想も現実と地続きだった。今は夢の中でさえ、傷付いた馬を癒すことなどできない。魔法の遊園地なんだな、と僕はあらためて思う。
 すっかりきれいになった白馬の一頭が、僕の前で立ち止まった。「壮亮も乗せてもらいなよ」と言うリリイはもう、白馬に引かれた馬車の中だ。
 僕は大人しくしている馬の背中によじのぼった。馬の体はあたたかくて、添えた手のひらに脈さえ感じた。
 馬は僕を乗せて走り始める。メリーゴーランドを何周もぐるぐる回る。細かな光も、狂った蛍のようにぐるぐる僕らの周りを回る。めまいがするほどきれいだ。
 またあの懐かしいような音楽が鳴り始める。ハーモニカとかチェンバロとかが奏でる、リリイに出会った時の音。メリーゴーランドから流れてくるのかと思ったが、そうではなかった。どこから聴こえてくるんだろう?





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