山の奥、川が生まれる場所に、父と息子が住んでいた。息子の名前はカイルと言った。
 父子は普段、狩りをして暮らしていたが、音楽も得意で、暇があれば手作りの笛や太鼓を鳴らして遊んでいた。
 ある時、父は熊にやられて死んでしまった。カイルは父が大切にしていた笛を形見に、山を下りることにした。笛は、半分に割れた笛で、このままでは吹くことができなかった。
 山を下り、いくつかの村を越えると、大きな湖のほとりに真っ白な城があった。カイルは城下町で手作りの胡弓を弾いて日銭を稼いでいたが、その音楽があまりに素晴らしいので、やがて城に招待されることとなった。朗らかな性格のふくよかな王様は、カイルを城お抱えの音楽家として大事にもてなした。
 ある日、王様と婚約している砂漠の国の美しい姫がやって来た。姫は自国の面白い話をカイルに話してくれたあと、砂漠の国ではもうずっと雨が降らなくて困っているということを話した。姫はカイルの持っている半分の笛を見て、古代の王たちの墓がある遺跡に行くといいと教えてくれた。
 カイルは、姫の家来であるザリという女に案内を頼み、砂漠の国へと向かった。ザリは耳が聞こえなかったが、読唇術を使うことができた。
 川をずっと下っていくと、砂漠の国へ出た。その頃にはもう川幅はだいぶ広くなっていて、海のように波が打ち寄せていた。
 川のほとりには水があって人々は豊かだったが、そこから少しでも離れると、雨も降らない枯れ果てた砂漠が広がり、人も動物も植物も住まない荒涼とした景色になった。
 王族の墓はその砂漠の中にあった。カイルとザリは布で全身を覆い、強い風の吹き付ける砂漠を横切った。
 手持ちの水も尽きようとしていた頃、二人は遺跡のある場所に着いた。砂の中に無数の白い石碑が打ち立てられている。その真ん中には、大きな四角錘の建造物(今の私たちの言葉でいう、ピラミッド)がそびえ立っていた。
 ピラミッドの底には小さな入り口があった。入り口には古い呪術的な文字が書かれ、封印されている様子だったが、二人は封印されたその石の扉を破り、中に入った。
 入り口から、地下につづく階段がずっと伸びていた。下りるにつれて、空気は不気味にひんやりとしてきた。
 入り口からの光が遠く後ろへ消えていった頃、かがり火の焚かれた階段の横の壁に、たくさんの部屋が続けざまについているのが分かった。部屋の中には生きた彫刻があり、足を踏み入れると襲いかかってきたり、お喋りをやめたりした。
 ピラミッドの地下にたどり着くと、そこはかなり広い空間だった。見上げると、天井は四角く平らになっており、部屋の中央をはしる渡り廊下の下に見える底は、漏斗のように先が窄(すぼ)まっていた。つまり、この空間は上部の建物と鏡に映したように対になっている、いわば逆さピラミッドだったのだ。
 この広大な空間を囲む四つの壁には、びっしりと楽譜が書き込まれていた。中央にある台に乗っていた片割れの笛を、カイルが持っていた笛のもう一方と合わせると、それらはぴったりとくっつき、完全な笛に復元されたのだった。
 完全な形になった笛でカイルが壁に書かれた楽譜を吹くと、その音楽は、聞こえないはずのザリの耳にも届いた。曲はとても長いものだったが、笛の名手であったカイルは、ひとつも間違えることなく、それどころか見事なまでに情感を込めて吹ききった。
 曲が終わったその瞬間、どこからか水が噴き出し、あっという間に溜まった水に二人の体は持ち上げられた。
 二人は抱き合ったまま天井まで近付いた。あわや溺れるかと思ったが、カイルは天井の近くに穴が開いているのを見つけた。二人は水に押し出されるようにしてそこから脱出した。
 外では大粒の雨が降っていた。砂漠に久しぶりの雨が降った。カイルの吹いたあの伝説の楽譜は、雨乞いの音楽だったのだ。
 こうしてカイルは伝説の音楽家、また雨乞い師(レイン・メイカー)として崇められるようになったのだった。






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