男らしさへの憧れ[2]



 小さな身体を包んでいるタオルには、緋色の文字で《RedtaiL》と書かれている。

 彰の知るところでは無かったが、彼らは全国ツアーの真っ最中。たまたま帰省日だったこの日、たまたまコンビニに立ち寄ったところで彰を見つけたのだ。


「…あの…くらはしさん」

「なに?」

「たいこ叩いたら、くらはしさんみたいに大きくなれますか」

「へ?」

「おれ…もう少し男らしくなりたいんです…」


 そう言った瞬間、笑顔だった大人たちの顔が固まった。

 彰もそれに気づいて戸惑った。自分は何かおかしい事を言ったのだろうかと。


「…え?」

「お…男の子なん?」

「え?」

「え?男の子なん?まじで?」


 椋橋はもちろんの事、一舞も高倉も、驚いて目を丸くしている。その反応を見て、彰は納得した。

 そうか。男の子だとは認識されていなかったのか…と。

 彰自身も気にしていた事ではあるが、艶やかな黒髪と長い睫毛の乗った目元に華奢な体つきは、どう見ても女の子の雰囲気であった。


 やはり女の子だと思われていたのかと、少々悲しい気持ちになりながら。それでもどうにか、男らしくなる方法が知りたかった。強くなりたかったのだ。


「ごめんごめん、綺麗なんはええ事やんか。落ち込んだらアカンよ」


 一舞が慌てて励ましてくれるが、欲しいのはそれじゃない。

 俯いて、少々唇を噛みながら、もう一度。改めて質問をする。


「…男らしくなるには、どうしたらいいですか」

「…そうやなぁ…なあ、タカさん。こういう時は何て言うたらええねやろ?」

「椋橋の真似なんか出来んやろしな。ひゃひゃっ」

「まずはアレちゃう?ご飯いっぱい食べて、運動して、体力つけてからの話やん」

「お。一舞ええこと言うたな。そうや。彰はなんやほっそいから、まず体力つけな、太鼓なんか叩けへんで」

「…たいりょく?」

「そうや。飯いっぱい食うて、外でむっちゃ走り回ったらええねん」

「……」

「体力ついたらあれやで、やりたい事なんでも出来るようなるで」

「…ほんと?」

「あぁ、ホンマ。太鼓かて俺より上手なるで」

「わ、わかっ…りました。ありがとう」

「おー。役に立てて良かったわー」


 どう答えていいかと困っていたらしき椋橋は、彰からの反応に安心したような表情を見せた。


 実際は、期待していた答えでは無かった。しかし、椋橋のこの大きな身体には何か秘密があるのだという事はなんとなく察した。

 とにかく自分が今できる事から始めよう。そしていつか、椋橋のように大きな身体になって、誰にも頼らず生きて行ける自分になろう。

 包まれたタオルの下で、小さな拳を握りしめ、そう心に決めたのであった。




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