男らしさへの憧れ[1] 「あの…」 「ん?」 塗れたアスファルトが煌めく雨上がり。 一般的なワンボックスカーのすぐ脇。 自分の目線の遥か上にある、まるで大木のように立つ大人たちの其の顔は遠く。更に、切れた雲間から差し込む光が逆光となって邪魔をする。 眩しさに目を細め、一際大きな身体の椋橋の、服の裾を引っ張りながら。きちんと御礼を言おうと、彼の顔を覗き込んでいた。 「あの…さっきは、ありがとう…ございました」 「あぁ、はは。ええよ。てかなんや、車ん中居ったらええのに。寒ないか?」 「…はい」 何時の間にやら車から出て来ていた彰の姿を見て、柔らかい笑みを見せると、椋橋はしゃがみこんだ。彰と目線の高さを合わせようという目的らしい。 「お兄さんたちは、何をする人…ですか?」 「あー、俺等か?怪しいモンとちゃうで。実はな、音楽家っちゅーやつやねん」 「おんがくか?」 「そう。俺は椋橋て言うねんけど、太鼓叩く人な」 「…たいこ」 「あと、あの眼鏡のオッサンは高倉さん言うて、ベース言う楽器使うねん」 「おい誰がオッサンや」 「え?なにが?」 「なにがちゃうわ。笑てんなや」 眼鏡の人、高倉が笑いながら反応すると、椋橋もまるでいたずらっ子のような笑顔を見せた。 「あの…べーすって?」 「ん?あー、それちょっと説明難しいな。はは。一舞が、ギター弾くねんけど、ギターわかる?」 「ぎたー…はわかる」 「それと似てる楽器がベースや」 「…にてる楽器」 「そう。そんで、あの耳のデカい兄ちゃんは、俺等のマネージャーさんでな。色々な世話してくれはる人やで」 「…耳?」 「耳デカいやろ?でもあんま大きい声で言うたらアカンで」 「聞こえてますよ椋橋さん」 「あれ?お前居ったん?」 「…ふ」 仲の良い大人たちの会話に、うっかりこぼれた小さな笑い声。 優しく答えてくれた大人たちの冗談めかした雰囲気に、少しだけ緊張が解けたらしい。 彰の笑顔を見た椋橋も、高倉も一舞も、そしてマネージャーも。安心したように微笑んだ。 en aparte'*top← +α← Home← |