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4.懐かしむ
2013/05/22 01:39

幼馴染みと和解設定って何よ!という方はこちら





太陽が地平線より生まれる、少し前の時間帯。
砂漠を駆ける二頭の馬と二人の男女がいた。男の乗る黒馬は少し駆けるスピードに不満を持っているようだったが、主が隣を走る女を置いていくはずがないと分かっていたので仕方ないとばかりに少し嘶いた。黒馬のその様子が、黒馬の主にも伝わったのか、黒馬の主は苦笑いを溢してもやはり黒馬の予想通り速く駆けるよう指示は出してくれない。しかしそんな様子の黒馬とその主の様子に気付いた並走する女が手を前に出して、先に行っても良いと合図を出してくれた。そうゆう心遣いは有難いのだが、許可を出してくれたって己の主は並走するだろうことは黒馬には分かっていた。
なんせこの黒馬だって小さい頃からバクラと共に育ってきた、バクラの愛馬なのだから。黒馬は、己の主がどれほど幼馴染みの彼女を大切に思っているのかなんて十分過ぎる程理解していた。
黒馬が二人共に自分に乗れば良かったのに、なんて少し拗ねたようか考えを持ちつつ走っていれば、いつの間にか目的地に近付いていたらしく、スピードが緩められた。帰りは全力で走ってやるから、という意味を込めて二回労るようにバクラが黒馬を軽く撫でるように叩いてやれば、黒馬は満足そうに嘶いた。
「さぁ、ついたぜ」
「まだ太陽は出ていないようだな……」
「寒いか?」
「大丈夫。……バクラの方が寒そうだぞ」
「お前よりは寒がりじゃねーよ。ほら、行こうぜ」
「ああ。……懐かしいな」
「ああ、ホントにな」
バクラはそう笑いながら言いつつ、何年か前のようにマハードの手を取ると、子供の頃一緒に朝日を眺めた場所へ歩き出した。

あの頃はバクラの声はもう少し高かったし、身長もマハードの方が高くてほとんど体格の差などなかった。それが今ではバクラの声は昔よりは低くなったし、身長もバクラがマハードを追い越してまい、彼の方が体格も良くなった。滑らかに丸みを帯びて小さかった掌の大きさは、昔は二人共ほぼ同じだったのに、成長して掌の大きさまでも大きく差がついてしまった。
それになにより、昔と大きく違うのは手の繋ぎ方だった。
昔は親子が繋ぐような繋ぎ方だったのに、今は指と指を絡めるような、所謂恋人繋ぎというものに変わった。
「お、もうすぐだぜ」
生き別れてからの月日を感じさせるには十分だった。
再会してから、手を繋いだり、抱き締めたりして、それは如実に現れてしまった。声をかけてくれるバクラの声は、マハードの記憶のバクラの声より低くて艶かしいし、体格だって抱き締められればマハードがすっぽりと収まってしまう程立派になっていて、バクラが"男性"なのだという認識が当たり前のことなのだが生まれた。幼い頃はそんな性別の違いなど感じなかったから、余計にマハードがそう感じているだけなのかもしれないが。むしろまだ一緒に村にいたときに、お互いを大切な人と認識するのは別としても、お互いを一人の男女として見ていたのか怪しいくらいだ。
それに仕方ないことだけれど、少しの寂しさを覚えてしまっているマハードはバクラを見上げる時に、ときどき寂しくなってしまう。しかしこんなことを言ってもバクラを困らせるだけなのは目に見えているし、我ながらなんて面倒臭いやつだ、とも自覚していたのでバクラには話していない。第一、話してどうにかなる問題でもないし、バクラに迷惑をかけてしまうのが嫌だった。
「……此処に来るのは、あの日以来だな」
「俺様が一世一代の告白した日か」
「そう、私が人生の中で一番嬉しかった瞬間だな」
お互い顔を見合わせて、笑い合う。
こんな些細なことで、こんなにも幸せなのに何を寂しがっているのかとマハードは自分を叱咤した。性別の違いや、離れていた年月は大きく違っても、想いは通じているのだろうから。
「なぁ、言わせてくれよ」
その表情と声色は、真剣だった。
そのバクラの言葉と真っ直ぐに前を見据える横顔だけで、マハードはバクラが何を、どうして言いたいのか、すぐに分かった。幼い頃、バクラがマハードを大切に想っていたのだろうことは確かだが、お互い愛し合って結婚するという意味をちゃんと理解していたのか定かではないからだ。ただずっと一緒に居たくて、その方法が結婚なんだという単純な思考だったような気もした。
だからもう一度、ちゃんと告白したかったのだ。
「……なら、今度は私から言おうか」
「俺から言う」
頑なに譲らない、という姿勢を現すバクラにマハードは微笑んだ。格好がつかないとかなんとか、バクラはバクラなりに自分ルールがあるようだ。気に入らない盗み方だったりすると、盗んだ物を置いていってしまうような、そんな自分の信念やプライドを持っていた。これも要はそうゆうことなのだろう。男だからとか、女だからとか、性別は関係ない。
ただ、バクラがマハードに贈りたい言葉なのだ。

太陽がまだ地平線から姿を見せきっていない時間帯の砂漠。
そこで二人の男女が想いを馳せた。




俺様にも気にいらねぇ勝ち方ってものがあんだよ!っというバクラは格好良いですよね。闇バクラの台詞だけど、バクラはバクラですし、いいよね!
エジプトから、地平線から太陽を眺められる場所があるかなんて知らないけれど、二次創作だからいいんだよ。(魔法の言葉、二次創作だからいいんだよ)

▼追記
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