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社畜、という言葉がすっかり馴染んだ私の体はいつものようにピットにあって、目の前の白いスポーツカー…こちらもお馴染みRX-7の修理に励んでいる。
まだ今回は傷が浅く、左側のサイドミラーが綺麗にすっ飛んでいた。取り付けるだけの作業だから時間はかからない事を伝えたのだが、「実は僕、アルバイトを抜けて来てて、もし修理が終わって時間があったら届けに来てくれませんか?」と、あからさまに困ってますアピールをされてしまった。勿論断ったが、後ろから社長に行ってきなさいと矢を放たれてしまい、修理が終わったら行かざるを得なくなってしまった。


「あーー行きたくないなーー誰か行ってくれる人いないかなー」

「お前指名の客でなんで他の野郎が乗ってくんだよ」

「…その通り過ぎて何も言えんわ」

「大体さ、安室さんって男の俺から見てもイイ男に見えるけど、何でそんなに嫌ってるワケ?」

「嫌ってないしイケメンだと思うけど、あの人の車の破壊の仕方は普通じゃない。
余程の運転オンチかカーアクションのレベルだよ。修理がハイペース過ぎてあの笑顔の裏が怖いったらありゃしないよ」

「そんなこと言って〜。もしかしたら正義のヒーローかもしれねえじゃん」

「同僚の佐藤クンの頭はお花畑かしら。あーもう交換終わっちゃったよ。ねえ行ってきてくれない?」

「往生際が悪すぎる。早く行ってこいよ」

「ふぁい。請求書出したらそのままお客様の所へ行ってきます…」

生あくびを隠しきれずに事務所に行き、請求書の概要を打ち込み、自分が来ている繋ぎに目をやる。うん、今日は汚れてないからこのままでいいか。
印刷した請求書を三つ折りにして封筒に入れて、直したばかりの車に乗り込んだ。