なんとか地獄の残業が続く日々を終えて美しい曲線美を取り戻したRX-7は、また私の元から所有者の元へと戻っていく。
「真依さん、今回も有難うございました」
「いいえ。前回伝えたとおりの箇所に手を掛けましたので、念のため車の確認をお願いします」
「大丈夫です。みなさんの腕は信用していますし、何より"次"もやるだろうし」
「…こちらとしては状態の維持を心掛けてほしいです。
とりあえず何かあったらまた連絡をください。それと、請求書になります」
開店早々やってきた安室さんに決して安くはない請求書と車のキーを差し出す。
「いつもありがとうございます。また振り込みますので」
「分かりました。お気をつけて」
「…あと、これもしよかったら貰ってください。…実は僕、探偵をやってまして、何かあったら連絡をください。いつもお世話になっている真依さんが困ったことがあれば、力になりますので」
ふと差し出された名刺を反射的に受け取ってしまい、社交辞令にまた何かあれば、と曖昧に返すと、是非、なんてまた人当たりの良い笑顔で返す安室さん。
とりあえず貰った名刺を財布に入れてピットに戻ると、同僚の佐藤クンが驚いた顔で私を見やる。
「おい、お前今日休みだぞ」
「…本当に?」
「仕事が好きなのは分かるけど、休むときは休まねえと体持たねえぞアラサー」
「うるさいな!あんただってアラサーでしょ!」
「男は30からって言うだろ。…とにかく、たまには実家に帰らないとなんだろ、“お嬢様”?」
「思ってないのに言わないで貰えるかしら。まあ、帰るわ」
愛車のコルベットに乗り込んでエンジンをかける。
ああ、素敵な音だなと悦を感じ、そう遠くない実家に向かった。