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RX-7はスポーツカーの中でも圧倒的に事故車が多い。
ロータリーエンジンはアクセルを踏むだけで期待値以上のスピードが出る車。それを理解していない若者は身勝手に峠を攻めて事故…下手すれば廃車というのはよくある話。

だが、一級品の芸術であることも事実。この前期型のFC系は空気抵抗をも気にしない力強い型であり、ロータリーエンジンを世に知らしめた強烈な車。しかし目の前にあるFD後期型はしなやかな車体に鋭く風を裂く走りは有名なスポーツカーの仲間入りをした。
あの柔和な安室さんがどんな走りをして車体を崩してくるのかと思うと…なんだか想像がつかないが、恐らく故意的なキズであるのはよくわかる。

何故か知らないがいつからかうちの工場で修理を頼むようになり、その都度期間など無理難題を押し付けてきてイライラするが自然と車を見ていると嫌な気には左程ならなかった。

エンジンルームは今回粉塵が多く入っていてとてもきれいな様子ではないが、いつもはちゃんと小奇麗にしている。実際にエンジンをかけると曇りもない音でいかにこの車を普段から運転しているのかが如実にわかった。


実際廃車状態で工場に持ってこられた時もあり、その時は正直ショックが大きかった。

何度も何度も修理している車が見るも無残な状態で、あの日は安室さんを物凄く攻め立てた気がする。懲りずに彼はうちの工場から再度RX-7を買ってまた乗り回しているが、キズをつける頻度が減った様子は全くない。でも同じ車を購入すると言う事は、恐らく安室さんがRX-7を愛車としているというのは、聞かなくてもわかる話。

車は単なる人間の足ではなく、その人となりで相性が変わる人とのパートナーだと私は考えているからだ。勿論、アクセサリーとして資産家が価値のある車を何台も所有する、というのも理解が出来る。だが結局はいくら成金が高級車に乗ろうが、その人となりは隠すことが出来ない。そして車の装備品で車の価値を良くも悪くもすることが出来るのが事実だ。

そういった私の固定観念で見ると、安室さんは何度も何度もキズをつけてここにやってくるが、彼のRX-7は上品な装いを普段から惜しまない。乗る人のことをしっかり認めているんだろうな、と彼の車を見ていると感じてしまう。



さて。
簡単に言ってくれたが3日後の朝まで時間がない。今日から残業が続くと思いながらまずは空いている人員総出で板金作業に取り掛かることにした。