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「何やら様子がおかしいですね。今走り去った車は… ッ!真依さん、人が倒れてます!」

「轢き逃げなんて人として最低ですね…ッ!とりあえず近付きます!!」


バイクの下敷きになって倒れている人を、一緒にツーリングをしていたであろう連れの女性がバイクを起こそうとしているが、力が足りないのか起こしきれていない。
急いで私も車で近くまで掛け寄る。安室さんがバイクを起こしてくれて、1人で動けない被害者の方を私と女性で引きずった後に座らせる。

ヘルメットを取ってあげると、頭部からの出血はあるが意識はしっかりしていて「ありがとうございます、」と礼を言われる。


「外傷は…脚の骨折と頭部の外傷ですね。救急車を呼びましょう、真依さん、お願いできますか」

「分かりました」

急いでスマホを取りだして救急に電話をする。要件を伝えて電話を切ると、安室さんが「真依さん、悪いですが車を貸してください」と急に頼み込んできた。

「えっ、嫌です」

「犯人を捕まえなければいけないので…真依さんは危ないので、出来れば此処で待っていてくれませんか?」

「嫌ですよ!いくら犯人捕まえるからって私のコルベットまで傷だらけにされちゃあたまったもんじゃない!……私が捕まえますから、安室さんは助手席にいてください!」

あからさまに納得していない顔を前面に出している。柔和な人が不機嫌だからか、端整な顔立ちが酷く睨んでくるからか、正直怖いけどこの人に車を貸して愛車がおじゃんになる方がマジで耐えられない。
でも、そもそも私だって好きでスポーツカーに乗っている。


「…言っておきますけど、私の車は“スティングレイ”ですよ?毒で一突きしてやりますよ」


カーチェイスは苦手じゃないんだ。