「おい、お嬢、何ぼーっとしてんだよ」
「……」
「おい、お嬢!!」
「…っわ。佐藤クンか……」
「だいじょーぶか?この前のパーティーの後からずっと覇気がねえよ。まあ、過ぎた事はそんな気にすんなよ」
「うん…、そうする」
軽く肩を叩かれ、喝を入れられる。
あの日の騒音はどうやら厨房でのガス爆発だったらしい。食事が一通り出来った後で、料理人達も表に出ていて、幸いにも怪我人は出なかった。
しかし私が直前までいたエントランスは爆発の衝撃で一部が破損しており、もし自分がその場にあのまま佇んでいたら…と思うと、身がとても震える。
それに、あの…安室さんに似た男の人。
あの人が私に声をかけてくれたのは偶然だったのだろうか…それとも……。
≪奥田さん、奥田さん、至急事務までお戻りください≫
店内放送がなんだか私を呼んでいる気がする…。気が乗らないまま、とりあえず事務所に戻ることにした。
「…で、今日はどうしたんですか?」
「今日は傷じゃありませんから、そんなに睨まないでくださいよ。ちょっと最近バッテリーが上がりやすいから見てもらいたくて」
「…すぐ終わりますから待っててください」
今出来れば見たくない顔だったが、この人は私のお得意様だった。
とりあえず端子を持ちだし、RX-7まで向かう。
エンジンルームを安室さんに開けてもらい、バッテリーの電圧を端子で測る。
「あー…11V半ばなので、ほぼ寿命です。交換です。今付いてるバッテリーそんな悪いものではないので、同じものを付けておきますけど、大丈夫ですか?」
「はい、僕の車は全て真依さんにお任せしていますから」
「…嬉しい事言ってくれますね。じゃあ、早速準備します。この場でやっちゃうんで、少し待っていてください」
もう一度RX-7のバッテリーの型番を確認し、倉庫へ行きバッテリーを持ってくる。腰に差してるスパナがあれば十分だろう。
「少し時間かかりますので店内で待っててもらっていいんで」
「…いや、少し勉強の為に見せてもらってもいいですか?」
「まあ、…構わないけど」
「今出てきた文字列が型番ですか?」
「そう。この数字とアルファベット…各4種類が意味も表わしているの。その意味はネットとかで出てくるから自分で確認してくださいね」
「分かりました。…ああ、そのプラス端子とマイナス端子を取ればすぐ交換が出来るんですね」
「まあ間違えるとショートしちゃうよ。しかも必ずマイナス端子から外さないといけないし。でも、間違えなければ、楽。ほら、後は端子の締め直しで終わるから」
「……っはい、完了しました。工賃含めて、今日は1万円でお願いします」
「いやあ、真依さん、勉強になりました。はい、どうぞ」
「丁度お預かりしました」
領収書を手渡しすると…そのままガシっと手を握られる。
「真依さん、一体いつになったらドライブ一緒に行ってくれるんですか?」
「え…いや、ちょっと手が…」
「答えてくれるまで離さないですよ」
「あの、別に嫌がっているわけでは…ッ そもそも連絡先知らないのに…」
「この前、僕の名刺渡しましたよね、そこに電話番号とメールアドレスが書いてありますので、好きな方で連絡をしてください」
待ってますよ、と言われながら再度手を強く握られ、優しく手放される。
いや、色々急展開過ぎて…頭の整理が全く追いつかなかった。