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初めに今回の主催であるお父さんの姉妹会社の社長方に挨拶を行い、他取引先の会社関係の方に次から次へ挨拶回りを行う。お父さんの関係が終わったら、今度はお母さんの友人の、有名人の方々。少しは自分の性格が社交的だと思うけど、こうも数がいると勢いも必要になって、私にお供してくれたのは左手のグラスのアルコールだった。
私の頭はいい感じにクラクラで、これ以上勢いに任せると酒に飲まれそうな気がしたので近くにいた爺やに体を冷ましてくる事を伝えて、廊下に出た。



学校を卒業してから、ずっと家を出ている。
同級生は何人も結婚して、子供がいて、と華やかな生活を送っていると思う。結婚式には何度も呼ばれて、祝儀貧乏だなと自分を卑下したこともある。

レストアするには、自分の板金技術は勿論、様々なパーツを探し出すパイプが必要で、今の私には行きあたりばったりになって、最悪途中で手つかずになりそうな予感がする。
優しい爺やだから、最悪車を買って渡せば喜んでくれるだろう、なんて考えたときは山ほどあるけど、それじゃあ私が整備士になった意味はなくなってしまって、爺やとの約束も破ることになる。

今日みたいに華やかな式典に出ると、自分の立ち居振る舞いがどうも不安になる。自分より年下の子が綺麗な所作をしていると見惚れてしまうことは少なくない。私が教えられた事が間違っているとは思っていないけど、場数が極端に少ないからあまり顔を出すのは乗り気ではなくなってしまう。
あー色々な事が巡ってきていて、やっぱり相当お酒にやられたんだな、と実感する。




「お隣、よろしいですか?」


「えっ…、ああ、はい…… ッ!?」


「おや?どこかでお会いした事ありましたかな?」

隣に来られた男性は、私がよく知るお得意様……に限りなく似ている、が
ハンチングを深めに被り、その表情は夜の所為もあり詳しくは見る事が出来ない。


「…いえ、気のせいよ。気を遣わせてしまってすみません」

「そんなことないですよ。貴方みたいな美しい人に気にかけてもらえて光栄です。しかしそんな格好では体が冷える。中に戻った方がいい」

「…少し酔いを醒ましていたの。でも、ある程度落ち着いたから戻る事にするわ」


「その方がよろしいかと。此処にいると素敵なドレスを変えなければいけないことになる」


それはどういうこと、と伺う前に人差し指を唇に宛がわれ、声を失ってしまう。
変な人、と不振に思いながらも会場に戻る。




バアアァァン!!!

大きい音が自分の後ろから急に鳴り響いた。