確実に良いことをした…女性に何度も言われた感謝の言葉に心がとても温まって自然と笑みが零れてた……のに、その半面肝が冷えた私は変に冷静だった。
「そういえば真依さん、さっき念願のロータリーサウンド聞けましたね」
「えっ…安室さん冗談半端ないですね。さっきって……いやいや、あの状態でエンジン音を堪能出来るわけないでしょ!こんな商店街でカーチェイスって…命がいくつあっても足りないわよ」
「それは大げさですよ。でも、ロータリーサウンドの聞き直し…、仕切り直して今度ドライブにでも行きましょう」
「今度は商店街じゃなくて山道でお願いします」
そうですね、たまにはどこだかの峠でも攻めてみようかな、なんて呟いているけど、御免被る。私は貴方と一緒にFlyhighするつもりはないのだ。ただ少しだけRX-7のエンジン音が聞きたいだけなのに何故峠を攻める話になっているんだ?
「…?真依さん、顔色があまり良くなさそうですが」
「…安室さんは良い性格していますよ、本当…」
「ハハハッ!そう褒められると悪い気がしないですね」
「……」
食えない性格だと思った。これ以上は何を言っても裏目に回りそうな気がして黙っていると、いつの間にか自分がよく知る工場に着いた。
「真依さん、今日は色々厄介事に着き合わせて申し訳なかったです」
「いえ、良い事したんですから気にしないでください」
「それは何より。おや、RX-7のこんな所に擦り傷が……」
「…」
お仕事ありがとうございまーす。気の抜けた声が口から漏れた。