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51.静けさはざわめきを



大海原を青い軍艦が駆ける。
シェリダンの港から逃げるように出航したタルタロスは、沈痛な空気を纏ってアクゼリュスの崩落跡地へと走っていた。

艦橋には、軍服に身を包んだ男と、漆黒を纏った女の二人だけ。背中を向け合って、対照的な位置に座っている。
彼らはパネルを操作する手だけ動かして、言葉を交わすことなく機械音だけが響き渡っていた。

■skit:『大人』として



「……大丈夫。こちらは特にいじられた形跡はありません」

椅子を回転させてミカルが振り向くと、向かい側の彼もレンズを押し上げ「こちらも問題ありませんね」と立ち上がった。
そのまま指揮官席まで移動すると、前方の景色を見渡す。行先に大きな穴が見えてきた。

ガチャ、と扉が開く音と同時にルークが顔を出した。その後ろには皆もいる。
誰も彼もが重たい気持ちを表情に映し出している中、ひとり、ティアだけは凛々しく顔を引き締めていた。

(…ティア)

イエモンたちの死は、誰もが悔やみ苦しむのが当たり前の感情と言えるだろう。自分たちのすることに巻き込み、挙句罪もない人々を大勢犠牲にしてしまった。
だが、誰よりもその苦しみが大きいのはティアのはず。彼らを手にかけたのは神託の盾――彼女の兄の命令によるもの。齢十六でその事実を、全て理解した上でその表情ができるのか、とミカルはティアを見る目を細くした。それでも前を向かなければならない現状は変わらない。
彼女が弱音すら吐かないというのなら、ミカルが眉を下げるわけにはいかない。それが、齢を多く数えるものの義務であり、ルークの手を引っ張った自分の責任だと思っていた。


入ってきた皆が順々に席へついていく。ルーク、ティア、アニス、ガイは操縦席へ。そしてナタリアとイオンはゲスト席へしっかりと腰をつけた。
それを確認して、ミカルが目の前のパネルを操作しながら皆へ届くように口を開く。

「予定より、到着が一時間遅れています」
「これ以上の失敗は許されません。皆さん、気を引き締めてください」

ジェイドの言葉が耳に届いたと同時に、船体がガタガタと揺れだす。
アクゼリュスの崩落跡に空いた大穴に、海水が吸い込まれているせいだ。

「ミカル」
「了解!譜術障壁、起動します!」

ミカルの細い指がボタンを押すと、揺れる船体が更に大きく揺れ、アニスが椅子の手を握り締めた。
そして現れる浮遊感。


「始まりますよ!しっかり席についていてください!」










51.静けさはざわめきを









 


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