06




迂闊だった、ムカつくほどに。
そう感じながら横たわる体を動かそうとした。 近づいてくる黄ザルを視界にとらえた。
指一本たりとも動かない。 口の中の血がとめどない。 体が熱いのか寒いのかよく分からない。


「残念だったねェ、こうなれば、もう君は死んでもらうしかないよォ。」


踏みつけるように輝く足を構え、止めを刺そうとする。
そもそもこうなったのは、ルフィが、処刑を止めようと覇王色の覇気を使ったときに視線が動いてしまった。 その一瞬は光速の彼には十分で、側頭部を回し蹴りされて地面に叩きつけられたのだ。


『…また死ぬのか。』


呟くと同時に光の輝きが強くなる。


『……死んで、どうする。』


まだ何もしてない。 死ねるわけない。 終われるわけない。
もう、1度死んだくせに、また死のうなんて、そんな戯言。 こんな道半ばで、殺人鬼として何も全うしていない途中で。




『(―――自分を殺したくなる!!)』


ガンガンする頭、手に、足に、力がこもり、やっと動かした視線の先には、ルフィと胸を貫かれた男、ルフィの兄の姿が見えた。 貫く拳が纏う赤が、兄を殺した炎の赤と重なって見える。 その炎の、マグマの赤から目がそらせない。 赤い。ゆれる、炎。焔。

ふざけんな、こんなこと、あっていいわけがない。

怒りと憎しみが、腹の底から身体中にわいてくる。
機微なその違和感を感じた黄ザルはすぐ足を踏み下ろしたはずだが、踏み下ろした足の感触は固く、その先にはいるはずの少年がいなかった。
その瞬間こめかみに衝撃が走り、目の前がちかちかとする。
嘉識は黄ザルに膝蹴りをかまして吹き飛ばし、血反吐を吐きながら叫んだ。


『こんな世界、ぶっ壊してやる!』


黄ザルがふらついている隙に嘉識は弓矢を構えて、ルフィの兄を殺した張本人である赤イヌに狙いを定める。 ただただ憎くて、壊したかった、殺したかった。 そしてその気持ちは体に現表れた。
弓矢が黒に染まり、構える手まで黒に染まっていき、その手で強く、強く、引き絞る。
それが武装色の覇気だと気づいた者もいれば、本人のように気づかない者も。
赤イヌが嘉識の殺意に気づいて嘉識の方を向いた時、嘉識はその手の矢を、殺意を込めて放った。
放った瞬間、辺りの誰もが首筋にナイフを這われたような感覚に襲われ、気づけば赤イヌの、ルフィの兄に止めを刺した手の甲に深々と突き刺さったのだった。
赤イヌの前にはジンベエ、後ろにはガープ中将。
矢を食らったものの、諸ともしない赤イヌは腕のマグマを沸き立たせたが、今度は白ひげ海賊団のビスタ隊長とマルコ隊長が制す。


「あー、うっとおしいのォ、覇気使いか。火拳はもう手遅れじゃとわからんのか。」


誰の目にも明らかなそれを見つめる間もなく、刀を地面に突き刺して息を切らしながら立ち続ける嘉識に黄ザルが襲いかかる。
連撃を受け流すのにも精一杯どころか、危うい。
血で滑って刀が落ちたところを狙われ、左肩をビームが貫き、さらに心臓を狙われたところで首根っこを後ろに引かれる。


『ぅ、』

「しっかりしな!」


ふらつく嘉識の目の前に現れたのは白ひげ海賊団の隊長数名。 守れと頼んだ覚えはないが、おそらく、ルフィと共に行動していたからだろう。
きっとこの戦場では海兵かそうでないかで大体別れているのだ。 敵か味方か。
息を切らしながら、腹から流れている血を見つめながら、聞こえてくる声に傾ける。


「―――ルフィ、おれがこれから言う言葉を…お前、後からみんなに伝えてくれ…。オヤジ…!!みんな…!!そしてルフィ…―――、今日までこんなどうしようもねェおれを、鬼の血を引くこのおれを…!!!愛してくれて…、


―――――ありがとう…!!!」


周りの音が聞こえなくなったかと錯覚するほどその声は響き、そして、静寂のあと、ルフィの叫ぶ声が聞こえた。
ああ、守れなかった。


あの日の残像が消えない

(もう消えない)(消してはならない)




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