03




「ねえ、そろそろ話してもいいでしょ?」

『あ、うん、むしろ、…よく今まで聞かずにいてくれたと思ってる。』


俺が結局何がどうなってこうなったのかとみんな思っていたろうに。
とは言えどこから話そうかと思いながら、ず、と白湯を啜る。
ここに来てようやっと一味全員集合しているわけだが、俺がいない間に戦局は動いていていつのまにかルフィが囚人監獄乗っ取ったりビッグマムがこちらに来ていたりらしい。しかし、こうして言葉にしてみてもなおますます意味がわからない事態になりつつある中、俺の話なんてと思うものの、こうして集まられてはいまさら避けられない。
さて、と、一息ついたところで語り始めるべく白湯で潤った口を開いた。

はじめに、俺はあの赤色が言っていた通り元々ここではない別の世界で生きていたということから始めようか。信じない人相手にして説明したら終わりが見えないので、そういうものだと思って疑問は飲み込んで一回全部聞いてほしい。
そんな別の世界で俺は零崎一賊という、流血の繋がりの殺人鬼集団の一員、殺人が生きていくことに必要で呼吸と称するぐらいのイカれた集団の一人だった。
17歳のある日、全身橙色の女、想影真心と名乗る奴に会って早々に殺す宣言をされたから応戦したけど、そこでさくっと負けて心臓取られて殺されてしまったのがきっかけ。
え、そんな引いた顔しないで。だから心臓見たことあるのかって以前発言をしたのかって…、冗談ではないよあの発言は。バッチリ見た、背後から貫通した掌に綺麗に乗って、…うわ殴りかからないで、ごめんって。ぐろい閑話はさておき。
そしてそれで終わったはずだったのに、この世界になぜか記憶を持ったまま生まれてきてリスタート。以前青キジが言っていたように、こちらの世界の両親、兄を失ったって経緯はみんな知っての通りなので割愛。
俺がそうして第二の人生を歩む一方、あっちの世界では俺が死んだことが原因で、うちの一賊は相手が誰であろうと一賊に仇なす者は皆殺しっていう家訓があるので、それで、みんな橙色に挑んでみんな返り討ちにあって死んでしまっていた。元々俺を狙ったのも零崎はそんな家訓があるからその橙色のいい実験台になったらしい。
ともあれ、俺が死んだのが始まりだった。たとえそれが偶然たまたまだとしても。
そして赤色たちの奮闘の甲斐あって想影真心と裏世界は決着がつき、もう零崎として生きないことを誓約にして数人は零崎を辞めて生き残り、零崎一賊壊滅っていうのがあの赤色の話。
ちなみにみんな目にしたであろうあの赤色は、あっちの世界じゃ最強の二つ名を持つ女で、ほんと化け物も裸足で逃げ出すぐらいの強さを持つ請負人。炎上するビルの40階から飛び降りても無傷だった。ソウドオフ・ショットガンの零距離射撃を腹筋に食らっても生き残った。千人の仙人相手に勝った。哀川潤の踏み込んだ建物は例外なく崩壊する。
という恐ろしい武勇伝付きの最強の女。誰もが相手にしたくない。まあ、彼女の話だけなら全然本一冊じゃ足りないくらいの武勇伝に溢れているので、興味があれば、また今度暇な時にでも知っている範囲であれば。
そういうわけで、俺の死体がないことや辺り一帯の形跡から信じ難いことに俺は別の世界で生きていると仮説を立て、そしてたとえ別の場所にいようとそれを聞いて黙ってるはずないとお見通しだった元お兄ちゃんこと、軋識は俺が生きているという可能性に賭けて請負人に俺にもその誓約を守るよう、守らない場合は俺を、零崎嘉識を殺すように依頼した。まったく、弟を愛し過ぎるのも考えものだぜお兄ちゃん。弟がまた心臓ぶち抜かれないために殺してくれと依頼するなんて、はたから聞いたら滑稽だ。
そうして、請負人である彼女は次元?時空?を超えて俺を殺しにやってきた。手段は分からないけど、彼女なら次元を超えることすら出来てしまうのだろう。
で、彼女にターゲットにされた俺は実力でも負けていたけど、ほんとの敗因ポイントとしては、俺の刀が零崎になる所謂スイッチ、心臓部みたいなもので、逆を返せばあの刀が存在しなければ俺は零崎じゃないということを赤色に教えられてしまったこと。
あくまでも零崎を行使することを辞めさせる、零崎でいられなくする、零崎という人格を壊すという意味での殺人をされた。言い換えれば俺の中で零崎とそうじゃないやつが混在してて零崎の要素だけ見事に死んだ。グレーゾーンなんてよく言ったものだよ。


『結果、無意識的に存在していた零崎じゃない部分が残っているわけ。とは言え、二重人格ほどではないから今までとあんまり変わらないし、俺の兄さんのことは今でも許せないとは思っている。だけど、悪意があったわけではないし実際殺したわけではないということが理解できてしまっているから、前みたいに悪気があろうとなかろうと殺すって思考になかなかならないけど、身内傷つけられたらやっぱりキレるだろう。』

「思考回路がほんの少し落ち着いたってことかしら。」

『あー…、ニュアンスは合ってる。今までの俺からすれば全く違うと言えるけど、多分周りからすればそんな変わらないよ。ただ、なんていうか、零崎だった部分が半分以上だったから自分が自分でよくわかんないっていうか、…まあ、混乱してる状態。』

「で、結局お前はどうしたいんだ?」


そんなゾロの言葉にぐ、と言葉にするのが一瞬憚られたが言わねば伝わらない。


『…、何かをする、って目的はなくなったけど、まだいっしょにいたい、です。』

「じゃあいいじゃねえか!お前がどうであろうと、俺たちの仲間って分かれば!!」

「ったく、こいつはまた確信を…、」

「稀にあるわよね。」


俺がやっとの思いで絞り出した言葉に対して、間髪入れずに笑って口にしたルフィのその発言に言葉を失った。
流血で繋がっていた家賊すらも失ってひとりぼっちのような気がして途方も無い感覚が霧散した。いや今、改めて兄のことは許さないと言ったのになおもこうすっぱり清々しく言い切ることができるのは何でなのか。
こうもいとも簡単に、居場所をくれるなんて思っていなかった。勝手に自分でライン引いて、また何かに、不幸であるかのように、無意識に縋るものを探そうとしていた自分が恥ずかしくなる。
目頭がきゅ、と熱くなって視界が滲んできて、ここで生きたいって、こういうことなのかと納得した。この世界で誰かを殺すために生きたいという感情ではないのが初めてだ。


「泣き虫になったな。」

『うっ、さい、』


涙を堪えながら熱くなる喉から絞り出すようにありがとうと言えば、笑って当然だと返してくれた。



きっと何度も夢見た綺羅星
(眩さに目が奪われる)




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