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そして泣くだけ泣いた後に案内された刀の保管庫のような場所で、数も種類も豊富な中、結局、何だかんだ自分が使っていた"破壊者"と同じような刀を選んでしまった。結構引きずってるじゃないかと我ながら少し落ち込みながら目を擦った。
あの後驚くことに慰めてくれた女性はかの有名な花魁だった小紫、本当の名前は日和というらしく、モモのすけの妹という事実が教えられてびっくりした。いわゆるお姫様、初対面で肩を濡らすとは無礼者と思われてないだろうかと恐る恐る尋ねれば良いのですとさっぱり言われた。なんというか、俺の方が女々しいようだ。
そんな彼女は凛々しいことに、今面々に会えば情がわいて、緊張感あるこの状況にとってはよくないこととなると自覚しており、会いに行かないらしい。
よって残念ながら日和さんとは別れて合流先の編笠村というところにゾロと河童の河松とともに向かった。まあ、向かったとはいえ、俺はおんぶしてもらった身だけど。
最初はさすがにずっと土埃まみれのところにいたし血や嘔吐物にまみれて臭いし汚いしと言って固辞したのだが、お前の歩くスピードは遅いと一喝されて渋々お願いしたが罪悪感が凄まじくて。


「ぎゃああああ医者〜〜!!」

「お前だろ!」

「俺だァ!」


それでも道中何も聞かれないことにありがたさと罪悪感を覚えつつ、村に着くとすぐにチョッパーが騒ぎ立てながらも駆け寄ってきて、治療をして絶対安静を申しつけられたのが昨日。
腕の骨は麻酔されてなんだかよく分からなかったがごりごりと変な音が聞こえたのがちょっと怖かった。
手術中気持ち悪いわ目眩はするわ発狂したくなるわで麻酔をどれだけ撃たれたことやら。もはやそのうち麻酔効かなくなりそう。
今となっては包帯でぐるぐる巻きの左腕である、いやもはや全身包帯だらけなんだけど。
わいわいと外から討ち入りの準備で忙しそうな声が聞こえてただでさえいなかったのに何もしないのが申し訳ない気持ちにさせてきて、寝なきゃいけないから横になっているのに胸の中がずっとソワソワしてしまって眠気がなかなかやって来ない。


「おい入るぞ。」


こうなったら天井のシミでも数えてやろうかと思っていたところ、サンジが土鍋を持って入ってきた。内臓がずたぼろになったせいで消化の良いお粥だけしか食べれないがちょこちょこ味を変えてくれるのであんまり飽きないしおいしい。
体を起こしてもらって無事な右手でスプーンを持ち口に運ぶと、たまご粥の温かさがじわと五臓六腑にしみ出す感覚にほっとする。おいしいと言えばそりゃよかったと言いながら隣でタバコをくゆらせ始めた。
沈黙が苦になったわけではないが、ずっと誰も何も聞いてこないことの罪悪感が耐えきれなくて、おかゆを食べながらなんとなくぽつぽつ溢れてきた言葉を口にする。


『ほんとは、あの赤い人に殺してもらう予定だった。』

「…殺されに来たってテメェ自身が言ってたからな。」

『最善だと、良い機会だと思ったから。自分が自分じゃないような違和感のような感覚に苦しむぐらいならと思った。逃げたかった。別にみんなを責めるつもりはもうないけど、一緒にいたいからと零崎でいるための呼吸をしなかった時点でもう自分は手遅れなことは分かっていて、死んだまま息している感覚が辛くて耐えきれなくて。
…でも、結局自分たらしめた、いや、零崎たらしめたあの刀がなくなっただけで、生きていることが不安で、ぽっかりとした喪失感で虚しくて、それでもすっきりとして、前向けるような気もしてるんだけど、』


今まで後ろしか向いてなかったんだなって。家賊に、身内に、誰かに、誰かのためと義と威を借りて縋って生きていたんだなって思った。
後悔なのか反省なのかなんだかよく分からない感情も込めて、その言葉がどの言葉よりも小さくこぼれた。
その瞬間ぐしゃ、と髪の毛ごと頭を雑に撫でられる。


「俺はお前が生きててよかったって思ってるぜ。」


後は飯食って元気になったら完璧だなと言われ、空になった器を下げるその背中を呆気に取られたように見送ることしかできなかった。



舌で転がす7度8分の微熱
(面映さが込み上げた)




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