03




斜め下から上へと刀を振り上げたが黄金の盾によって鈍い金属音とともに塞がれる。何度か刀をぶつけるものの壊れそうにもない。背後に迫ってきた黄金の槍が足元狙って放たれ、跳んで避けると宙に浮いた体めがけて黄金の塊が伸びてきた。刀をスケボーに乗るようにして足をつけて下からの黄金の塊を刀の面で防いでさらに上に飛んで刀を真上から重力ごとぶつける。息をするように殺す。首筋めがけていった切っ先は黄金の盾に塞がれたが、ヒビが入ってばきんと音を立てて割れた。とっさにつくられたものなら黄金とはいえ壊せなくはないか。
焦燥の表情のテゾーロを見て思わずにやけてしまう。


『はん、俺を黄金にできなくて焦ってる?』

「っ、」

『残念、無理だよ。金粉降ってきた時俺は室内にいたから吸ってないから。』

「なんだと!?」


動揺。一手遅れる。その一瞬を逃さず、だん、と踏み出して放った突きはうしろに跳ばれたが腹に切っ先が刺さった。ちょっと浅い。しかしテゾーロのぎらりとした視線とぶつかった瞬間、黄金にまとわれた拳が目の前に迫ってきて背中をそらして避ける。力が入って思わず息を止めてしまった。
黄金にできないとわかっても怯まないかこの男は。


『俺のこと黄金にできないからって、仲間を黄金にするぞみたいな二流の脅しはしないよね、さすが世界一のエンターテイナー。』

「フン、白々しい安い牽制だ。だが乗ってやろう!お前ごときでは私には勝てない!」


上よというナミの声とともに見上げれば黄金のつららが降り注いだ。悪趣味だ。
刀を上空でぐるりと回転させて弾き飛ばした瞬間、テゾーロから伸びてきた黄金を体をひねって避けようとしたが、脇腹に鋭い衝撃と熱さが急に感じられた。ちょっと貫通。しかしよく見れば俺がさっき刺した同じところで、わざわざそうしたのか。
思わずくっ、と口角が上がる。いや笑えないんだけどね。相当負けず嫌いなようである。
斬りつけようと跳んで上段から振り下ろすも黄金に刀が包まれて、巻かれて斬れなくなったところに黄金の蔦がまた襲いかかってくるが刀を引きずりながら避ける。


「どうだ!刀を持てまい!」

『こんなんで勝った気になるなんて、笑止。笑えないよ。』


脚に力を入れてテゾーロへ真っ直ぐ駆けていく。無駄だという声とともに黄金の壁が作られてもスピードは緩めない。
俺の刀にも黄金がついているなら、壊せないわけない。矛盾の語源の話を知っているだろうか。最強の盾と最強の矛がぶつかったら、黄金と黄金がぶつかったら。
後ろ手に引きずってきた刀を横回転スイングで黄金の壁に思いっきりぶつけて刀に巻きつかれていた黄金も壁の黄金もばきんと音を立てて割れた。開けた視界のその先にはテゾーロ。


『とった、』

「かかったな!」

『――嗚呼、』

「嘉識!!」


成る程。ハメられた。まんまと仕向けられた。
壊した黄金の壁のいくつもの塊が、刀から離れた黄金の塊が、空中で細い棒に形を変えた。このためにわざと砕かせたのかと気づくももう遅い。そういうことか。
俺を全方位で囲むそれは一斉に降りかかってきて両手両足、腹部に刺さって、貫いてさながら串刺しのようにされてその場に固定される。避けきれない。痛い。口から咳き込むようにどば、と血が吹きこぼれた。


「惜しかったなァ。だが、処刑前のいいショーになった。」


お前もそこで見てろと愉快そうに笑みを浮かべながらゾロの方へ向き直り、ゾロを捕らえる黄金の一部を変形させて二本の斧を作り上げる。さあ、いよいよ。クライマックスだというテゾーロの言葉に観客も今日一の歓声を響かせた。
斧がゾロに迫ったそのとき、血まみれになった腕時計の秒針がゼロになったのを見て、少し笑ってしまった。
勝負には、勝ったよ。



勝者はどっちだ
(勝つのが先)(それから壊す)




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